米政権、中国製AIモデル規制を再検討 Kimi K3台頭で警戒

Illustration of a blue tech expo booth labeled 'KIMI LAB' with visitors exploring screens and staff at a counter, at a convention.

 米トランプ政権が、中国製AIモデルに対する規制強化を再検討している。中国の人工知能(AI)スタートアップ「月之暗面(Moonshot AI)」が2026年7月17日に公開した高性能オープンソースAIモデル「Kimi K3」の登場を受け、米企業による中国製AIモデルの利用を抑制する複数の措置が政権内で改めて議論されている。

 米メディアAxiosなどによると、検討されている措置には、政府調達ルールの変更、中国のAI研究機関に対する輸出規制、中国製AIを利用する企業への安全性保証義務などが含まれる。規制が実現した場合、OpenAIやAnthropicなど米国の大手AI企業に有利に働く可能性がある。

Kimi K3は2.8兆個のパラメーターを搭載

 Kimi K3は、AIの知識や判断能力を支える内部設定値であるパラメーターを2.8兆個備え、100万トークンのコンテキスト長に対応する世界最大級のオープンソースAIモデルである。長大な文章や大量の情報を一度に読み込み、処理できることが特徴だ。

 各種ベンチマークでは、Anthropicの「Claude Opus 4.8」やOpenAIの「GPT-5.5」を上回り、両社の最上位モデル「Claude Fable 5」と「GPT-5.6 Sol」に迫る性能を示したとされる。

 無料で利用できるオープンソースモデルでありながら、高価な計算資源を前提とする米大手AI企業のモデルと競合できる性能を実現した。米国では、シリコンバレーの企業がデータセンターに巨額の資金を投じる現在の開発方式を巡り、その妥当性を問う声も出ている。

 米企業の間でも、価格が安く性能の高い中国製オープンソースAIモデルの採用が広がっている。Kimi K3の公開により、中国とのAI開発競争で米国が優位を維持するため、トランプ政権にAI政策の早期策定を求める圧力が強まっている。

米国にAIモデルの共通評価制度を要求

 OpenAIのクリス・レヘイン最高国際渉外責任者は7月22日、Kimi K3の登場について、米国がAIモデルの評価や試験に関する一貫した枠組みを確立する必要性を改めて示したと述べた。

 レヘイン氏は、明確な制度を整備すれば、AIモデルの市場投入を迅速化できるほか、政府機関や重要インフラ事業者も安心してAIを導入できると強調した。

 トランプ大統領は6月初旬、AI企業が新しいAIモデルを一般公開する最大30日前までに、政府と情報を共有できる自主的な事前評価制度を定めた大統領令に署名した。関係省庁に対し、8月1日までに最先端AIモデルを対象とする非公開の評価基準と、企業向けの自主評価制度を策定するよう求めている。

中国AI研究機関の輸出規制も検討

 Axiosによると、米商務省は2025年、中国の複数のAI研究機関を、輸出規制対象となる「エンティティー・リスト」に追加することを検討した。リストに指定された場合、米企業は政府の許可を得なければ、対象機関に関連する技術を利用できなくなる。

 米国家安全保障局(NSA)とホワイトハウス国家サイバー長官室は、中国のAI研究機関がもたらす脅威について勧告を公表し、米企業に中国製AI技術の利用を控えるよう促す案も検討していた。

 ホワイトハウスでは、米企業が中国製AIモデルを利用する際、安全性を保証し、サイバー侵害が発生した場合には法的責任を負うことを義務付ける大統領令案も検討された。商務省も、国内サプライチェーンを保護する権限を使い、中国製オープンソースAIモデルを対象とする規制案を政権内で回覧していたという。

 これらの案は当時、規制がイノベーションを阻害することを懸念した政権高官らによって退けられた。しかし、イノベーション重視派として知られたホワイトハウス元AI顧問のスリラム・クリシュナン氏らが政権を離れたことで、安全保障を重視する強硬派の発言力が拡大した。

 中国のAI技術が急速に進歩し、サイバーセキュリティー上の懸念も高まったことから、中国製AIモデルの規制を求める声が再び勢いを増している。

全面禁止以外の中国製AI抑制策も浮上

 政権関係者によると、トランプ政権は中国製AIモデルを全面的に禁止しなくても、政府調達ルールの変更やエンティティー・リストへの追加の可能性を示すことで、利用を抑制できるとみている。

 中国製AIモデルを利用する企業に対して安全性への注意を促すほか、バックドアやセキュリティー上の問題が存在する可能性を訴える案も検討されている。中国製モデルへの警戒を強める一方、米国のオープンソースAI開発を支援する戦略も議論されている。

 ただ、価格や実用性の面で中国製オープンソースAIモデルに対抗できる米国製モデルは、現時点で限られているとの見方もある。

サックス氏はオープンソース排除を批判

 ホワイトハウスのAI担当外部顧問デービッド・サックス氏は7月19日、X(旧ツイッター)への投稿で、AI政策が重大な転換点を迎えていると指摘した。

 サックス氏は、AIモデルの収益を事実上2社で独占しているクローズドAI企業が、政府に対して競争相手となるオープンソースAIの排除を求めていると批判した。大手AI企業に有利な規制によって競争が阻害されることに、以前から警鐘を鳴らしている。

 同氏は、大手企業がすでに本音を明らかにしたとした上で、オープンな競争を重視するシリコンバレーの多数の関係者も立場を示すべきだと訴えた。

 政権関係者によると、主要AI企業やその関係者は3~5カ月ごとに、オープンソースAIモデルに対する規制強化案を政権側へ持ち込んでいるという。中国製AIへの対応と米国内のAI産業の競争環境を巡り、トランプ政権内で意見の隔たりが表面化している。

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