中国・上海で遺伝子編集治療の6歳女児死亡 大学が調査開始、論文未記載も判明

2026年7月28日

 中国・上海交通大学医学院は7月26日、附属新華医院で2025年3月に実施された実験的な遺伝子編集治療で6歳女児が死亡した問題について、専門調査チームを設置し全面調査を開始すると発表した。この問題は、国際科学誌「サイエンス」と研究不正監視サイト「リトラクション・ウォッチ」が23日に共同調査を公表し、事故が約1年間公表されていなかったことを明らかにしたことで表面化した。RFIやドイチェ・ヴェレ(DW)、中央通信社(CNA)などが伝えた。

遺伝子編集治療後に死亡、病院は因果関係を認定

 女児は希少遺伝性疾患「スナイダーズ・ブロック・カンポー症候群」を患い、CHD3遺伝子変異を標的とする個別化遺伝子編集治療を受けた。研究者主導の臨床研究には、上海交通大学医学院松江研究院の仇子龍チームが参加し、「世界初の脳を対象とした遺伝子編集人体治療」と説明していた。

 女児は2025年3月23日に新華医院へ入院し、翌24日に塩基編集(ベースエディティング)技術を用いた治療を受けた。脳脊髄液へ塩基編集ツールを搭載したウイルスベクターを投与した後、治療3日後に発熱し、その後重度の腎障害を発症した。約1週間後、重篤な免疫反応による血栓性微小血管症で死亡した。

 新華医院倫理委員会と病院の内部評価では、死亡と治療との因果関係が認められたが、この事故は公表されず、臨床試験登録情報にも反映されていなかった。2025年9月には、上海当局が試験の監督や登録に不備があったとして病院に約3600ドル(約2万4000元)の行政処分を科していた。

家族が約86万ドル負担、リスク説明にも疑問

 サイエンスによると、女児の家族は治療費など約86万ドル(約582万元)を自己負担し、夫婦の貯蓄や親族・知人からの借入で資金を調達した。このうち約13万ドルは、実験を担当した研究員・楊侃氏の個人口座へ複数回に分けて送金されたという。

 また、女児の両親は、治療に伴うリスクについて十分な説明を受けていなかった可能性があるとされる。一方で、報道によると、仇子龍氏本人が直接金銭を要求した事実は確認されていない。

 女児は2019年生まれで、4歳の頃に言語や描画能力の遅れからCHD3遺伝子変異によるスナイダーズ・ブロック・カンポー症候群と診断された。症状は比較的軽く、言語療法や作業療法によって改善もみられていたが、両親は将来の自立生活を心配し、2023年に仇氏と接触して治療を決断した。

ネイチャー論文に死亡事例を記載せず

 2026年2月18日、仇子龍チームは復旦大学、新華医院の研究グループと共同で、学術誌「ネイチャー」にCHD3遺伝子編集に関するマウス実験の成果を発表した。論文では塩基編集技術「TeABE」によってマウスの行動異常が改善したと報告したが、人への遺伝子編集治療や女児の死亡には一切言及していなかった。

 さらに、正式版では初稿に含まれていた女児一家の遺伝子データや謝辞が削除され、霊長類を対象とした安全性試験で確認されていた肝障害や腎障害についても記載されていなかった。

大学が全面調査、専門家は論文再検証を要求

 上海交通大学医学院は声明で、研究倫理に反する医学研究を断固認めないとし、調査結果に基づき厳正に対処すると表明した。

 サイエンスとリトラクション・ウォッチの依頼で内容を検証した遺伝学、ウイルス学、生命倫理学などの専門家7人は、研究チームが治療リスクを過小評価し、動物実験で確認されていた安全性上の懸念を十分反映しないまま臨床試験を実施したと指摘した。また、ネイチャー掲載論文について、画像やデータ、研究資金の流れを含めた全面的な再調査を求め、一部は論文撤回の対象となる可能性があるとの見解を示した。

 ネイチャー編集部は、論文審査時には女児死亡や病院への行政処分を把握していなかったと説明し、関連情報が開示されていれば審査で慎重に検討していたとの見解を示している。


出典

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