米国の情報機関が、半導体大手NVIDIA(エヌビディア)のジェンスン・フアン最高経営責任者(CEO)と交流のあった中国人女性について、中国政府の情報提供者と判断し、監視を続けていることが分かった。米紙ニューヨーク・タイムズが10月29日、関係者の証言を基に報じた。女性はシンガポールのデータセンター企業Megaspeed Internationalの幹部を務めていた黄楽(Alice Huang)氏。米当局は同社が中国企業による米国製の高性能人工知能(AI)半導体の不正取得に関与した疑いも調べている。
ロイターや英紙ガーディアン、台湾メディアも相次いで報じた。米情報当局は黄氏が中国政府に情報を提供していたと判断したとされるが、具体的な情報の内容や、NVIDIAから機密情報が流出したかどうかは明らかになっていない。
台湾でフアンCEOと複数回接触
台湾の聯合報によると、黄氏は2024年6月、台北で開催された技術関連の展示会後、フアンCEOやAI関連企業の幹部らとバーで同席していた。
2025年5月にも台北での会食後、フアンCEOと行動を共にする様子が確認されたという。
米当局は、黄氏がフアンCEOとの交流を通じ、NVIDIAの事業や米政府の半導体輸出規制を巡る動向などについて情報を得ようとしていた可能性を調べていたとされる。
NVIDIAは米国のAI半導体政策に大きな影響力を持つ企業で、フアンCEOはトランプ大統領とも直接交流している。
トランプ大統領、約1年前に報告受ける
ニューヨーク・タイムズによると、トランプ大統領は約1年前、黄氏に関する情報機関の調査結果について報告を受けた。
しかし、政権は直ちに措置を講じなかったという。関係者は、NVIDIAの半導体販売への影響や米中貿易関係の悪化を避けようとした可能性を指摘している。
一方、フアンCEOには、外国の情報機関による接触の危険性を知らせる米政府の防諜上の説明が行われていなかったとされる。
半導体の輸出規制回避疑惑も調査
Megaspeedは、NVIDIA製の画像処理半導体(GPU)を利用したクラウドサービスやデータセンター事業を展開している。
米当局は、同社などが第三国のデータセンターを利用し、中国企業による高性能AI半導体の取得や利用を支援していた疑いを調べてきた。
米国は中国への先端AI半導体の輸出を制限しており、シンガポールなどを経由した不正な転売や、海外の計算設備を通じた規制回避が安全保障上の問題となっている。
ただし、今回の報道だけでは、Megaspeedが実際に輸出規制に違反したと断定することはできない。
NVIDIA、半導体の不正転用を否定
フアンCEOは29日、ブルームバーグ通信の取材に対し、Megaspeedとの取引や黄氏との交流は通常の商取引の範囲内だったと説明した。
同社が購入したGPUについても、使用先を調査し、すべての機器の所在を確認したと述べた。MegaspeedがNVIDIA製のAI半導体を違法に中国へ転用した事実は確認していないという。
NVIDIAの広報担当者も米CNBCに対し、フアンCEOは年間数千人の顧客と交流しており、黄氏との接触に特別な事情はなかったと説明した。顧客企業がNVIDIAの企業秘密や米国の国家安全保障に関する情報にアクセスすることはできないと強調した。
フアンCEOによると、黄氏は既にMegaspeedを退職している。米政府から黄氏に関する警告を受けたこともないという。
台湾当局も情報収集
台湾の聯合報が30日に報じたところによると、台湾行政院大陸委員会の梁文傑副主任委員は、今回の疑惑について具体的な状況を確認していると説明した。
内政部の劉世芳部長は、中国籍の人物が台湾の国家安全保障関連法令や反浸透法に違反した場合、台湾の法律に基づいて処理し、その後、国外退去の必要性を判断するとの考えを示した。
ただし、台湾当局が黄氏による違法行為を認定したわけではない。
今回の問題は、米中間の先端半導体を巡る対立に加え、世界的な半導体企業の経営幹部を標的とした情報収集活動への警戒を強めるものとなっている。
出典
- ロイター:NVIDIAのフアンCEO、Megaspeedとの取引は正常と説明(10月29日)
- 英ガーディアン:NVIDIAのフアンCEOが中国側の情報収集の標的になった疑惑(10月29日)
- 台湾・中央通信社:フアンCEO、Megaspeedとの交流は正常と説明(10月30日)
- 台湾・聯合報:台湾での接触や米政府の情報収集を報道(10月30日)
- 台湾・聯合報:台湾当局が疑惑について状況を確認(10月30日)
- 台湾・科技新報:NVIDIAが顧客対応とGPUの流通経路調査について説明(10月30日)
(2026年10月30日)
