
中国の女子高飛び込みの五輪金メダリスト、全紅嬋選手に対する凄惨な集団ネット暴力が行われていることについて、中国国家体育総局水泳運動管理センターなどは8日、公安機関への通報と法的手段による責任追及を開始したとの声明を発表した。ドイツの国際公共放送ドイチェ・ベレ(DW)などが伝えた。
事態が表面化したのは4月初旬。SNS上で282人が参加するメッセンジャーアプリWeChat(微信)のチャットグループ「水花征服者連盟」の対話録が拡散された。グループの規則には「全紅嬋は死ぬほど叩け」と明記され、20種近い侮辱的なあだ名や私生活への誹謗中傷が横行。メンバーには元ペアの陳芋汐選手ら複数の代表チームメイト、CCTV記者、国際審判員らが含まれているとの疑惑が浮上し、各界に衝撃を与えている。
現在19歳の全紅嬋選手は、先日のインタビューで思春期の体型変化に伴う中傷に触れ、「体重計を見るのが怖い。家族や友人への攻撃はやめてほしい」と涙ながらに訴えていた。当局は今回の事案について歪んだ「飯圏(過激なファン)」文化と断じ、「関与した者が誰であれ、猶予もなく厳正に処罰する」と指摘した。英雄的なアスリートが身内からも標的となっていた事実に、中国国内では憤りの声が収まっていない。
「水花征服者連盟」の闇と代表チーム内の亀裂
今回流出したWeChatグループ「水花征服者連盟」の内部資料は、単なるファンの暴走に留まらない深刻な問題を露呈させた。2022年に設立された同グループは、当初こそ競技に関する情報交換を目的としていたとされるが、2025年11月の規則更新により「全紅嬋と王楚欽(卓球選手)を自由に、死ぬほど叩くこと」を公式に許可する過激なコミュニティへと変質した。投稿内容には「売春をしている」「私生活が混乱している」といった、10代のアスリートに対するものとしては極めて悪質なデマや性的な侮辱が含まれていた。
特筆すべきは、参加メンバーの実名特定が進む中で、全紅嬋のライバルであり元パートナーでもあった陳芋汐選手や、昌雅妮、陳藝文といった代表チームの名選手、さらには本来公平な報道を行うべき中央テレビ(CCTV)の記者が含まれていた点だ。中国のSNS上では「ドリームペアと称賛された裏で、これほど陰湿な集団いじめが行われていたのか」と驚きが広がっている。代表チーム内での嫉妬や利害対立が、閉鎖的なチャットグループという密室で増幅され、組織的なハラスメントへと発展した可能性が極めて高い。
歪んだ「飯圏」文化への宣戦布告と体育総局の戦略
中国当局が今回、これほど迅速かつ強硬な姿勢を見せた背景には、中国社会で社会問題化している「飯圏(ファン界隈)」文化への強い危機感がある。本来芸能界で見られたアイドルへの熱狂的な応援スタイルがスポーツ界に流入し、特定の選手を神格化する一方で、ライバル選手を徹底的に攻撃する「畸形的」な構造が定着してしまった。国家体育総局は、こうした文化が選手の精神状態を蝕み、ひいては国威発揚の要であるナショナルチームの団結力を削ぐ「毒」であると位置づけている。
体育総局水泳運動管理センターによる「絶不姑息(決して容認しない)」という強い表現は、スポーツ界全体に対する規律是正の合図でもある。当局はネット上の誹謗中傷を単なる「個人の感想」ではなく、法的責任を伴う「権利侵害」として扱い、警察当局と連携して徹底的に洗い出す構えだ。これは、インターネット空間における言論統制を強化する政府方針とも合致しており、アスリートの保護を名目に、デジタル空間での規律維持をより厳格化する狙いも透けて見える。
産業構造の変化とアスリートのメンタルヘルス
全紅嬋のようなスター選手が直面する問題は、現代中国のスポーツ産業構造の変化とも密接に関わっている。SNSやライブ配信の普及により、アスリートは競技場外でも常に監視の目にさらされるようになった。全紅嬋の実家にインフルエンサーが押し寄せ、私生活を切り売りする「打カード(聖地巡礼)」現象は、個人の尊厳よりもトラフィック(アクセス数)を優先するネット経済の弊害そのものだ。
また、14歳で頂点を極めた全紅嬋が思春期を迎え、身体的変化に苦しむ中で受けた「太った」という中傷は、アスリートが抱えるメンタルヘルスの脆弱性を浮き彫りにした。科学的トレーニングと精神的ケアの両立が急務となる中、身内であるはずのナショナルチーム関係者が中傷に加担していた事実は、現在の育成システムにおける倫理教育の欠落を示唆している。今回の法的追及は、単なる犯人探しに終わらず、中国スポーツ界におけるアスリートの保護体制と広報戦略の抜本的な見直しを迫る試金石となるだろう。
[出典]
- 全红婵遭网暴 中国体育总局称支持法律维权(ドイツの波/DW)
- 全紅嬋遭網暴 282人微信群組對話截圖瘋傳 疑涉陳芋汐等名將(香港01)
- 全紅嬋遭網暴 陸體育總局出手 被說胖好傷心 盼勿波及家人 官方抵制畸形飯圈文化(中時新聞網/旺報)
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