
米ミシガン州のミシガン大学アンアーバー校の構内で同大工学部の中国籍研究員、汪丹浩(音訳)が3月19日午後11時ごろ、「ジョージ・G・ブラウン・ビル」の上層階から転落し、現場で死亡が確認されたことがこのほど分かった。ミシガン大学警察局(DPSS)は本件を「自傷行為の可能性が高い事件」として現在も捜査を継続している。米公共放送ボイス・オブ・アメリカ(VOA)などが伝えた。
中国駐シカゴ総領事館と中国外務省は、汪氏が死亡前日に米連邦法執行当局から「敵意ある不当な尋問」を受けていたと指摘した。中国側は、米当局が国家安全保障を名目に、中国人学者の正当な権利を侵害しているとして、事件の徹底調査と差別的な法執行の停止を強く求めている。
汪は同大の電機・コンピュータ工学系で、次世代半導体材料の研究に従事し、国際学術誌「ネイチャー」に論文が掲載されるなど世界的に注目される若手学者だった。
背景には、米大学内での中国によるスパイ活動への懸念深化がある。ミシガン大学では近年、中国人学生らによる軍事施設への不法侵入や生物材料の密輸などの摘発が相次いでおり、2025年1月には国家安全保障を理由に上海交通大学との提携を一方的に終了させていた。米議会やトランプ政権による監視体制が強化される中、学術現場での緊張が極限まで高まっている。
「チャイナ・イニシアチブ」再燃と学術現場の閉塞感
今回の悲劇は、トランプ政権が推進する「国家安全保障の強化」という大きな政策の流れの中で発生した。米連邦捜査局(FBI)をはじめとする法執行当局は、米国の大学を「中国による知的財産窃取の主戦場」と位置づけ、監視の目を光らせている。かつて物議を醸した「チャイナ・イニシアチブ」の流れを汲むこの厳格な法執行は、中国人研究者の身辺調査や資金調達源の徹底的な洗い出しとして具現化している。
ミシガン大学警察のメリッサ・オーバートン副局長は本件を「自傷行為の疑い」としながらも、詳細の公開を避けている。一方で、中国外交部は「米側は国家安全保障の概念を汎化(拡大解釈)し、政治工作を行っている」と猛反発した。汪氏のような優秀な若手学者が、当局の尋問を受けた直後に死を選んだという事実は、在米の中国人学術コミュニティーに計り知れない衝撃と恐怖心を与えている。
米中双方の主張は平行線を辿っているが、FBIデトロイト支局はVOAに対し「特定個人に関する捜査活動の有無については肯定も否定もしない」とのコメントに留めた。こうした「当局との接触」が精神的な圧力となり、研究者を死に追いやったとする中国側の主張に対し、米国側はスパイ活動防止のための正当なプロセスであったと示唆する構図が鮮明になっている。
相次ぐ摘発事例と上海交通大学との提携解消
ミシガン大学が厳しい監視の対象となっているのは、過去数年間の摘発事例が影響している。2025年6月には、同大のラボに勤務する中国人研究員が生物材料を中国へ密輸しようとしたとして逮捕されたほか、別の博士研究員らが「潜在的な農業テロ兵器」とされる菌類の密輸容疑で拘束された。さらに2024年10月には、同州内の軍営を無断撮影し、捜査員に「流星を見ていた」と虚偽の説明をしたとして、同大と上海交通大学の共同課程に在籍する中国人留学生5人が起訴されている。
これらの事件を受け、ミシガン大学は2025年1月、20年にわたり継続してきた上海交通大学との提携関係を一方的に終了させた。これは単なる一大学の判断に留まらず、米政府からの「研究資金提供の停止」という圧力を受けた結果であるとの見方が強い。
米議会では現在、外国からの寄付や契約の報告を義務付ける「DETERRENT法」が推進されており、特に中国共産党に関連する組織からの資金流入には極めて厳しい透明性が求められている。産業構造の観点から見れば、汪氏が専門としていた「ワイドバンドギャップ半導体」は、電気自動車(EV)や次世代通信、防衛産業における戦略的物資であり、米中ハイテク覇権争いの最前線にある技術だった。
トランプ政権下の監視体制と国際学術界への影響
トランプ大統領が2025年4月に署名した行政命令は、米国の大学に対し、外国からの資金提供に関する報告義務を劇的に強化した。2026年2月には国務省が教育省の監視業務を支援する体制を整え、スパイ活動の温床とされる研究協力への規制を強めている。下院の「米中戦略競争特別委員会」も、学者間の不審な動きを報告する通報サイトを稼働させるなど、学内の監視網は「官民一体」で網羅されつつある。
今回の汪氏の死は、こうした米政府による強硬な政策が、学術界における「自由な探求」と「国家安全保障」のバランスを崩していることを露呈させた。ミシガン大学工学部のカレン・トール学部長が「世界の科学界の損失」と最大級の賛辞を贈りながらも、その裏側で大学当局が政府の意向に沿った厳格な背景調査を強化している事実は、現在の米中関係が抱える深い矛盾を象徴している。
今後、米国内の他の主要研究大学においても同様の調査が加速することは必至である。米中対立が「学術の領域」を完全に侵食した今、優秀な中国人研究者が米国を避け、中国への帰国(海亀族)や第三国への流出を選ぶ動きが加速すれば、米国の科学技術力そのものの地盤沈下を招くリスクも孕んでいる。一研究員の死は、個人の悲劇を超え、米中ハイテク戦の凄惨な一側面として歴史に刻まれることになるだろう。
[出典] ・華學者遭美盤問後自殺亡 證為密歇根大學研究員(東網) ・密歇根大學中國學者遭美方約談後自殺 院長:全球科學界損失(香港01) ・密歇根大学中国籍研究人员坠亡和美国对中国在美国大学校园间谍活动的担忧(VOA中文網)
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