
米連邦地裁、中国の返還命令を執行せず「寄贈は適法」と認定
米カリフォルニア州北部地区連邦地裁のジョン・S・ティガー判事は3月31日、故毛沢東の元秘書であり中共長老でもあった李鋭氏の日記や書簡など約40箱に及ぶ個人資料について、スタンフォード大学フーバー研究所による保管の継続を認める判決を言い渡した。これにより、長年にわたり米中両国で繰り広げられてきた資料の所有権を巡る法廷闘争は、事実上の決着を迎えた。
ティガー判事は、李氏の娘である李南央氏による資料の所持およびフーバー研究所への寄贈について「合法であり、故人本人の意思にも合致する」と認定。北京の裁判所が先に下していた返還命令については、米国での執行を認めないとの判断を示した。対象となる文書は、1958年から李氏が101歳で死去する2019年までの約80年間にわたる膨大な記録であり、原本は今後も同研究所の図書・公文書館で厳格に管理され、一般の研究者に公開され続けることとなる。
中共指導部の内情と天安門事件の記録、散逸と検閲の危機を回避
問題の端緒は、2019年の李氏死去直後に遡る。李氏の第2夫人である張玉珍氏が、李南央氏が日記を無断で持ち出したと主張し、北京市の裁判所に提訴。北京側はこれを「盗取」と断定し、返還を命じていた。しかし、李南央氏は生前から李氏本人が「資料を中国に残せば、歴史が改ざんされるか破棄される恐れがある」と懸念し、2017年には明確に国外への寄託を決めていたと反論していた。
李鋭日記がこれほどまでに注目される理由は、その資料的価値の高さにある。1950年代の毛沢東近傍での見聞から、1989年の天安門事件における抗議者弾圧の生々しい記録、さらには中共指導部内の人間関係や意思決定のプロセスが詳細に記されている。研究者らは、これらの一次史料が中国国内に戻れば、当局による検閲や「封禁(封印)」の対象となり、歴史の真実が闇に葬られる可能性が高いと指摘してきた。フーバー研究所所長のコンドリーザ・ライス元米国務長官は、「今回の裁定により、現代中国史における最も貴重な一次資料の一つが守られた」と、判決の歴史的意義を強調した。
歴史資料を巡る「主権」と「学問の自由」の対立、国際的な影響
今回の判決は、単なる家族間の遺産争いを超え、国家による歴史統制と学問の自由の対立という国際的な側面を浮き彫りにした。中国政府は近年、歴史解釈を党の正当化に利用する「歴史虚無主義」への警戒を強めており、体制に不都合な史料の回収や隠蔽を組織的に進めている。李鋭氏のような体制内自由派の記録は、現在の習近平指導部が進める歴史記述の統一化にとって、最も不都合な存在といえる。
米中対立が深まる中、文化・学術資料の帰属を巡る訴訟は、ソフトパワーの攻防戦の一環ともなっている。フーバー研究所には、習近平国家主席の父である習仲勲氏に関する研究を進める研究者も多く在籍しており、今回の判決は今後の現代中国研究の継続性を担保するものとなった。資料が米国の司法制度によって保護された事実は、今後同様の境遇にある他の中国人識者やその遺族が、史料の海外寄託を検討する際の重要な先例となるだろう。
[出典]
- 判決出炉:李鋭日記将継続保存於斯坦福大学 – DW
- 美法院裁定毛澤東秘書李鋭日記續留史丹福大學 不送回中國 – 香港01
- 李鋭日記由胡佛研究所保存 美法院判決不送回中國 – 中央通訊社 (CNA)
- The Wall Street Journal
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