
湖南省の研修医が投身自殺=指導医のパワハラ示唆
湖南省長沙市の中南大学湘雅医院の神経内科の研修医で大学院生の女性が14日午後10時ごろ、同市内の橘子洲大橋から下を流れる湘江に飛び込んだ。女性は15日午後、遺体で見つかった。SNS上に遺言とみられる投稿が見つかり、警察は孫さんが自殺したとみている。
女性の遺言によると、指導教官から製薬企業との提携プロジェクトにおける被験者管理や倫理審査などの膨大な任務を指示され、本来の研修医としての業務を著しく阻害し、心身ともに限界に達していた。女性は2025年8月に国内最高峰の医学誌『中華神経科雑誌』で筆頭著者として論文を発表するほど優秀な学生だったが、日常的な叱責や退学の脅しなど指導教官によるパワーハラスメントに苦しんでいたもようだ。
現在、湖南省衛生健康委員会による公式調査が進められ、谷氏は診療停止となっている。一方で、現在58歳の谷氏が1990年の大学卒業当時に発表した論文では「指導医は実習生を思いやり、患者の前で叱責すべきではない」と説いていた。
中国では2013年より、医学部卒業者に3年間の実地臨床研修が義務付けられた。しかし、この制度下では、研修医が正規の医師と同等の過酷な労働を強いられているだけでなく、卒業や資格取得の可否を握る指導教官が絶対的な権力を持つため、過重な負担やハラスメントに直面しても服従せざるを得ないという、構造的な問題が指摘されている。
優秀な人材を圧殺する「規培」制度の過酷な実態
今回自ら命を絶った孫さんは、単なる一学生ではなかった。彼女は2025年8月、中国国内で最も権威ある医学誌の一つ『中華神経科雑誌』に、筆頭著者として「血清インスリン様成長因子-1と脳小血管病患者の頭蓋内外動脈硬化の相関性研究」という高度な学術論文を発表していた。医学博士を持つ専門家たちを共著者に従え、修士課程の段階でこれほどの成果を上げることは極めて稀であり、将来の中国医学界を担うエリートの一人であったことは疑いようがない。
しかし、その輝かしい実績の裏側で、彼女を待ち受けていたのは「規培(住院医師規範化培訓)」という過酷なシステムであった。中国の医学教育は2013年以降、制度の標準化を目的に、医学部卒業後の3年間にわたる臨床研修を義務化している。この「規培生」たちは、病院内では正規の入院医師(ジュニアレジデント)と全く同等の、あるいはそれ以上の実務をこなすことが求められる。カルテの作成、患者への処置、頻繁な夜勤に加え、大学院生としての研究活動も並行しなければならない。
今回の事件で特に注目されているのは、指導教官である谷某某氏が孫さんに対し、本来の臨床業務とは直接関係の薄い「製薬企業との共同プロジェクト」における事務作業や倫理審査、被験者の追跡調査といった膨大な雑務を押し付けていた点である。これは学術的な指導の域を超え、低賃金の労働力として学生を搾取する構造が常態化していたことを示唆している。
指導教官の「絶対権力」と医学界の歪んだ師弟関係
中国の医学大学院における指導教官(導師)の権力は絶大である。学位の授与、論文の承認、さらには将来の就職先に至るまで、指導教官の一存で決まるといっても過言ではない。この閉鎖的かつ封建的な師弟関係が、深刻なハラスメントを助長する土壌となっている。孫さんの遺言によれば、彼女は過去にも一度自殺を試み、高用量の精神科薬を服用しながら勤務を続けていた。しかし、大学側やカウンセラーに窮状を訴えても、指導教官とのパワーバランスを前に有効な対策が講じられることはなかった。
指導教官である谷氏は、スタンフォード大学でのポストドクター経験も持つエリートであり、学会の重職を歴任する権威であった。興味深いことに、谷氏自身が若かりし1990年に発表した論文では「実習生の心理を理解し、温かく指導すべきだ」と理想を語っていた。この過去の言説と、教え子を死に追いやった現状の凄惨な乖離は、中国の医学教育現場がいかに腐敗し、個人の理想を摩滅させる構造になっているかを象徴している。
ネット上では、多くの現役医師や元研修医から共感の声が上がっている。「36時間連続勤務は当たり前」「教官に逆らえば将来を潰される」といった悲痛な叫びは、今回の事件が一過性の悲劇ではなく、システム全体の病理であることを物語っている。優秀な医師を育成するための制度が、かえって優秀な人材を絶望へと追い込み、医学界全体の質を損なわせている皮肉な現状に対し、中国社会からは抜本的な改革を求める声が強まっている。
[出典]
- 湖南醫院研究生跳江身亡疑壓力過大 省衛健委調查 (中央社)
- 湖南女研究生墜江亡 遺書控導師壓榨致無法工作 (東網)
- 中南大学湘雅医院坠江研究生,曾以第一作者身份在国内顶级医学期刊发表论文 (封面新聞)
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