
中国の「危険な日本」ナラティブにNYTが疑問
米紙ニューヨーク・タイムズは2月24日、「地震、クマ被害、犯罪:北京の語りにおける『危険な』日本」と題する記事を掲載し、中国政府が日本を「危険な国」と描写して訪日旅行を抑制しようとしていると報じた。その上で、こうした安全ナラティブは長期的にみて説得力を持ちにくく、効果は限定的との見方を示した。
発端は、高市早苗首相が台湾情勢を巡り「台湾有事は存立危機事態となり得る」と発言したことへの北京の反発である。中国外交省は「在日中国公民の安全環境が悪化している」として、日本への渡航を当面避けるよう呼びかけた。
NYTによれば、中国側は地震の多発、偶発犯罪、交通事故、さらにはクマの出没事例まで取り上げ、日本を安全リスクの高い国と位置付けている。今年1月の訪日中国人は前年同月比61%減となり、春節期の東京や大阪、京都でも中国人観光客の減少が目立ったという。
しかし記事は、日本が地震対策や建築基準、治安管理の面で世界的に高い水準にある点を強調する。公式統計でも、中国人被害者が関与する重大犯罪は近年減少傾向にある。
米カルフォルニア大バークレー校の蕭強教授は、台湾問題を直接理由にすると政治対立が先鋭化するため、地震や治安といった「安全」を前面に出すことで、日本への不満を示しつつも、外交的な引き返し余地を残しているとの見方を示した。
訪日抑制の持続性に限界
訪日中国人は日本観光の最大市場である。日本政府観光局の統計では、2025年1~9月の訪日中国人は約749万人で、全体の24%を占める。それだけに短期的な影響は小さくない。
一方で、NYTは中国国民の日本への関心が依然として強い点にも注目する。日本の食文化や商品、観光地への人気は根強く、政治的緊張があっても旅行需要が完全に消える可能性は低い。
元米外交官のカート・トン氏は、中国当局が訪日を思いとどまらせるには相当の努力が必要であり、長期的に国民の訪日を完全に止めるのは難しいとの見方を示した。
経済と外交の狭間で
今回の訪日自粛呼びかけは、台湾問題を巡る日中関係の緊張が人的往来に波及した象徴的事例である。ただ、中国の訪日危険論が持続的な抑止力を持つかどうかは不透明だ。
観光関連企業の株価は一時下落したが、日本の訪日市場は韓国、台湾、米国などへと多様化が進んでいる。中国依存は相対的に低下しつつある。
NYTの報道は、中国の安全ナラティブが短期的な圧力手段にはなり得ても、長期的な対日世論形成には限界がある可能性を示唆している。日中関係は政治、安全保障、経済が交錯する局面に入っている。
[出典]
・中央通信社「紐時:中國藉散布假訊息力阻民眾赴日 長遠難收效」
https://www.cna.com.tw/news/acn/202602250213.aspx
・BBC中文「高市早苗台灣言論與中日外交風波:中國旅遊警示會給日本帶來甚麼?」
https://www.bbc.com/zhongwen/articles/cly9mnkyen8o/trad
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