粛清後の軍運営と「末端将兵」への異例の言及
中国の習近平国家主席は2026年2月10日、北京の八一大楼からビデオ形式で全軍の戦備状況を視察し、将兵への慰問を行った。軍制服組トップであった張又侠・中央軍事委員会副主席が「深刻な規律違反および法律違反」で失脚するという激震から半月。今回の視察は、混乱が続く軍内部に対し、習氏が依然として揺るぎない統治権を握っていることを国内外に誇示する極めて重要な政治的デモンストレーションとなった。
習氏は講話の中で、過去一年を「極めて異例で、並外れたものだった」と振り返り、軍が「反腐敗闘争の中で革命的な鍛錬を経験した」と強調した。中国共産党の第20回大会以降、粛清された上将は18人に達し、軍籍剥奪者は現役将校の中央委員の3分の2に及ぶ。こうした凄まじい「身内」の排除を経て、習氏が特に「末端将兵こそが信頼に値する」と言明した点は極めて重い。これは、軍中枢の高級幹部層に対する拭い難い不信感を公に認めたに等しく、ピラミッドの頂点に立つ習氏が、幹部層を飛び越えて末端組織に直接忠誠を求める「孤立した絶対権力」の現状を浮き彫りにしている。
削除された「張国燾」の故事と路線闘争の影
軍内の権力構造の変化を象徴するのが、軍機関紙「解放軍報」が2月9日に掲載し、わずか数時間で削除した不可解な論評である。同紙は、かつて長征の途上で毛沢東と激しく対立した指導者、張国燾(ちょう・こくとう)の故事を引用。張又侠氏らの問題を「党の分裂」を招く政治的腐敗と断じ、絶対的な服従を説いた。
張国燾は、軍事力を盾に「別の中央(独自の指導部)」を立てようとした分裂主義者の象徴だ。張又侠氏の失脚をこの歴史的裏切り者になぞらえたことは、今回の事態が単なる金銭的汚職ではなく、習氏の権威を揺るがす深刻な「路線闘争」であったことを物語っている。記事が即座に削除されたのは、張又侠氏の影響力を過大に評価し、習氏という「核心」との対立構造を際立たせすぎることを懸念したためとみられるが、軍内部に深刻な亀裂が存在した事実はもはや隠しようがない。
対台湾戦略の「純化」と孤独な軍権掌握
習氏は翌11日、党外人士との新年祝賀会においても、2025年の実績として「台湾光復記念日」の設立を強調した。この発言は、軍内の大粛清と密接にリンクしている。軍中枢から不穏分子を徹底的に排除し、指揮系統を習氏の意思に完全に同期させる「純化」作業は、将来的な台湾統一に向けた軍事行動を盤石にするための不可欠なプロセスだからだ。
現在の軍事委員会メンバーは、習氏本人と、粛清を監督する張升民氏のみという異常な少人数体制となっている。習氏は引退幹部らに対しても「軍事委員会主席責任制」への絶対的服従を求めており、恐怖政治に近い手法で軍を統合しようとしている。志を得たように振る舞う習氏だが、自身が任命した将軍たちを次々と葬り去らざるを得ない現状は、同時に「誰も信じられない」という独裁者特有の孤独と危うさを露呈し続けている。
[出典]
[関連情報]
- 中国軍制服組トップ・張又侠氏に失脚の兆候か 重要会議欠席 中南海で権力闘争激化の憶測
- 中国軍No.2・張又侠氏を「重大な規律違反」で捜査開始:WSJが報じた米国への核機密漏洩疑惑と軍指導部崩壊の衝撃
- 張又侠の失脚と中国軍の「沈黙」が示す異常事態:習近平政権は統治危機に直面しているのか
- 中国軍No.2・張又侠氏失脚の深層:軍委主席責任制の破壊と習近平政権が直面する「建軍以来最大の敗北」
#習近平 #張又侠 #中国軍 #反腐敗 #台湾問題

