タイ高速鉄道でクレーン倒壊、列車直撃し32人死亡。一帯一路の安全性とITD社の責任を問う

2026年1月14日午前9時ごろ、タイ北東部ナコーンラーチャシーマー県において、中国の巨大経済圏構想「一帯一路」の重要プロジェクトである「タイ・中国高速鉄道」の建設現場で、起重機(クレーン)が倒壊・落下する重大な事故が発生した。

落下したクレーンの巨体は、その直下を走行中だったバンコク発ウボンラーチャターニー行きの旅客列車(乗客195名)を直撃した。目撃者の証言によると、高さ9メートルの工事現場から落下したクレーンの金属構造物が客車を「真っ二つ」に切り裂き、直後に爆発と火災が発生した。タイ政府および現地当局の集計では、14日夜時点で32人が死亡、64人が負傷、3人が行方不明となる未曾有の惨事となっている。

複雑化する責任の所在と中国側の姿勢

本事故を受け、中国外務省の毛寧報道官は同日の会見で、犠牲者への哀悼の意を表しつつも「当該工区はタイ企業が施工しており、事故原因は調査中である」と述べ、中国側の直接的な施工責任を否定する姿勢を強調した。在タイ中国大使館も、現場には中国の施工企業や人員は関与していなかったとの声明を出している。

しかし、実際のプロジェクト構造は複雑である。事故のあった区間(全長37.45キロメートル)の建設を請け負っていたのは、タイのゼネコン最大手**イタリアン・タイ・デベロップメント(ITD)**社だ。その一方で、土木工事の設計や技術顧問、監理業務は、中国鉄路国際(CRIC)や中国鉄路設計集団(CRDC)といった中国の国営企業チームが主導していた。設計ミスか施工ミスか、あるいは管理体制の不備か。巨額の投資が行われる「一帯一路」プロジェクトにおいて、責任の所在を巡る中タイ間の応酬は避けられない見通しである。

ITD社の安全管理体制と過去のビル倒壊事故

今回、実務的な批判の矢面に立っているのがITD社である。同社はタイ国内で圧倒的な実績を持つが、近年はその安全管理体制に深刻な懸念が示されていた。特筆すべきは、2025年3月に発生したミャンマー地震の際、バンコクで唯一崩落した国家会計検査院(審計署)オフィスビルの建設を担当していた点である。

このビル倒壊事故では、施工基準違反があったとして、ITD社のプレムチャイ会長を含む幹部らが他者を死に至らしめた罪ですでに起訴されている。今回のクレーン事故も、吊り上げていた巨大なコンクリート構造物の重量バランス崩壊や、既存の線路上空での作業における安全確保の欠如が指摘されており、同社の体質が再び問われる形となった。中国企業にとっても、こうした問題を抱える現地パートナーとの協働は、一帯一路のブランドイメージを損なうリスクを露呈させた格好だ。

2028年全線開通への影響と今後の展望

タイ・中国高速鉄道は、総額54億ドル(約1700億ニュー台湾ドル)を投じ、バンコクからラオスを経て中国・昆明までを繋ぐ戦略的路線である。東南アジアにおける中国の影響力を象徴するインフラとして2028年の完成を目指していたが、タイ政府は本事故を受けて工事の即時全面中断を指示した。

今回の事故は、単なる建設現場の不祥事に留まらず、タイ国内の対中感情や「一帯一路」の安全性に対する国際的な信頼に大きな影を落としている。徹底した原因究明と、ITD社および関与した中国企業の責任追及がなされない限り、プロジェクトの再開は容易ではないだろう。

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