
中国・北京周辺に位置する河北省で、環境保護を目的とした冬季暖房の燃料転換政策が裏目に出ている。石炭から天然ガスへの切り替え(煤改気)を強制された農村部において、ガスコストの高騰と政府補助金の削減が重なり、厳寒の中で暖房を使用できない「エネルギー貧困」が深刻化している。香港メディアの『香港01』などが報じた。
事態を重く見た国営の新華社通信は2026年1月4日、「農村の採暖は環保(環境保護)の勘定だけでなく、温かさのラインを守らねばならない」と題した動画評論を公開。「『青空防衛戦』のために一部の群衆の基本民生を犠牲にしてはならない」と、地方政府の強硬な政策執行を異例のトーンで批判した。
強行された「煤改気」と膨れ上がる家計負担
河北省では2017年から、北京の空気質改善を目的とした「首都ブルー(藍天)」確保のため、京津冀(北京・天津・河北)地域での石炭燃焼が厳格に禁止された。これに伴い、農村の伝統的な石炭ストーブは強制的に撤去され、天然ガスパイプラインの敷設とガス暖房器具への転換が推し進められた。
しかし、このクリーンエネルギーへの移行は、農村の家計に過酷な負担を強いている。かつて石炭を燃料としていた頃、一冬(約4カ月間)の暖房費は2,000元から3,000元程度(約4万5,000円〜6万8,000円)で済んでいた。対して天然ガスへの転換後、室温を一定に保つための費用は5,000元から1万元へと跳ね上がった。
2024年の河北省農村住民の平均的な年間可支配所得は2万2,022元であり、暖房費だけで年収の3割から5割が消える計算になる。断熱性能の低い古い農村家屋ではガスの消費量がさらに増え、経済的困窮から「ガスは引いてあるが、怖くてスイッチを入れられない」という本末転倒な事態が常態化している。
補助金削減と「価格逆ざや」の構造的課題
農村住民をさらに追い詰めているのが、地方政府による補助金の段階的削減(退坡)だ。導入当初、政府は設備購入費の7割(上限2,700元)や、ガス使用量1立方メートルあたり1元の直接補助を支給していた。しかし、地方財政の悪化やインフラ整備の一段落を理由に、補助金は現在0.2元まで激減した。
この背景には、ガス供給企業と地方政府の深刻な財政摩擦がある。中国では天然ガスの卸売価格が市場連動型であるのに対し、住民向けの販売価格は低く据え置かれている。冬季の需要増で卸価格が高騰すると、ガス企業は売れば売るほど赤字になる「価格逆ざや」に陥る。地方政府がこの赤字分を補填できなくなると、ガス企業は供給を制限したり、高価な「非補助ガス」の購入を住民に強いたりする事態を招く。
元旦前後、河北省では夜間気温が氷点下4度を下回る寒波に見舞われた。SNS上では「高齢者が何枚もの布団にくるまって寒さに耐えている」といった訴えが相次ぎ、ネット上の関心も高まっているが、関連するハッシュタグが検索結果から削除されるなどの情報統制も見られる。
中国石油大学の劉毅軍教授は「天然ガスは支払い能力の高い都市部向けの『富貴気(金持ちの燃料)』であり、所得が低く家屋面積が広い農村への導入は資源のミスマッチだ」と指摘する。環境保護という国家目標と、国民の生存権という民生保障の板挟みの中、持続可能なコスト分担の仕組みを再構築できるかが問われている。
[出典] 河北供暖費太貴致農民寧挨凍不開暖氣 學者曾批天然氣屬「富貴氣」(香港01) 中國河北冬天供暖太貴農家寧挨凍 官媒為農民叫屈(中央通訊社)
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