12月7日に実施された香港特別行政区の第8期立法会選挙で、香港廉政公署(ICAC)が投票日に新たに4人を拘束した。ドイツの国際公共放送ドイチェ・ベレ(DW)や台湾・中央社などによると、4人はSNS上で投票放棄や無効票を促す投稿を行い、「選挙に関する不正行為を禁じる条例」に違反した疑いが持たれている。ICACは今回の選挙期間中に計11人を摘発し、うち3人を起訴したと明らかにした。香港政府は選挙秩序の管理を強化する姿勢を示すが、一方で「言論空間の萎縮」を懸念する声も広がっている。
■ 「愛国者治港」体制で進む政治の一元化
今回の立法会選挙は、2021年に導入された「愛国者治港」(愛国者による香港統治)原則の下で整備された新制度で行われる2度目の改選にあたる。聯合報によれば、候補者161人はいずれも資格審査委員会の承認を受けた「愛国者」に限られ、政治的多様性は大幅に制限された。選挙は、選挙委員会枠40、機能別30、地域直接選挙枠20の計90議席で構成され、12月8日未明にすべての議席が確定した。
DWは「制度改革後の選挙は、政治的競争ではなく、政府方針を支える政治体制を再確認する場へと変質した」と指摘する。制度の枠組みが固定化される中、市民が政治参加に感じる意義も変化しつつある。
■ 大埔宏福苑火災の衝撃が選挙に影を落とす
選挙直前、香港社会を揺るがす大規模火災が発生した。高層住宅「大埔宏福苑」火災では159人が死亡し、工事関係者15人が過失致死容疑で拘束された。中央社は「市民の悲しみと怒りが渦巻く中で選挙が行われ、社会全体が重苦しい空気に包まれた」と伝える。
李家超行政長官は当日午前に投票を行い、「改革推進と被災者支援のために重要な一票を」と呼びかけたが、火災による行政不信が政治参加に影響した可能性は否めない。
■ 投票率は31.9% 前回より上昇も投票者数は減少
中央社によると、7日午後1時30分時点の投票率は15.18%(62万7000人)で、出足は低調だった。最終投票率は31.9%となり、前回より1.7ポイント上昇したものの、投票者数は約3万3000人減少した。
低投票率の背景には、
・火災による社会不安
・選択肢の限定による政治的関心の低下
・制度への不信感
・SNS取締強化による萎縮
など複数の要因が重なる。
DWは「政治制度が再設計される中で、市民が投票する意味が大きく変わった」と分析し、聯合報も「制度的要因により選挙が可視的な競争を失った」と論じている。
■ 外国メディアへの警告 情報統制強化への懸念
選挙前日の12月6日、中国中央政府駐香港国家安全公署はAFP、ニューヨーク・タイムズなど複数の外国メディアを呼び出し、火災や選挙に「虚偽情報が含まれている」と警告した。DWは「具体例が提示されないまま虚偽と断じた」と報じ、香港記者協会は「説明のない非難は記者を萎縮させ、報道の自由を損なう」と反発した。
情報管理の強化は社会の言論空間にも影響を与え、選挙環境の透明性に疑問を投げかける動きともなっている。
■ 選挙結果は「愛国者」が独占 政治の均質化が加速
12月8日早朝、選挙結果がすべて確定し、選挙委員会枠40、機能別30、地域直接選挙枠20の計90議席が選出された。聯合報は「議席はすべて資格審査を通過した“愛国者”が占めた」と伝えており、制度改革後の政治の一元化があらためて浮き彫りとなった。
今回の選挙は、火災による社会的緊張、SNSでの逮捕強化、外国メディアへの警告といった複合的な要素が重なり、香港の政治環境が新たな局面に入っていることを象徴したと言える。

