
高市早苗首相の「台湾有事」発言に対し中国が強く反発し、日中関係が急速に悪化した。中国政府は国民に日本への渡航を控えるよう警告を出し、その直後から日本行き航空券の予約が急激に減少した。ドイチェ・ベレ(DW)などによれば、独立系航空アナリストの李漢明氏が追跡したデータでは、11月15日時点で約150万件あった日本行きの有効予約が2日後には約100万件に急落し、約50万件が取り消されたと推計される。通常は日々5%程度の自然減で推移するところ、今回は33%の急減で異常値を示した。
この動きを受け、中国の主要航空会社は12月31日までの日本行き航空券について全額返金を開始した。キャンセルは企業向けの訪日需要にも及び、日本国内では中国企業の団体予約や宴会の取り消しが報告され、観光・小売関連株が軟化するなど市場にも影響が出ている。
背景には高市首相の発言を巡る外交対立があり、中国国内の政治宣伝も緊張を煽っている。中国が対日制限を一斉強化する動きについては、当サイトの関連記事「中国が対日制限を一斉強化」も参照されたい。
大型旅行社が日本向け旅行を全面停止 査証代行も中止
旅行業界ではさらに大きな変化が起きた。共同通信によれば、中国の大型国有旅行社は16日から日本向けの団体旅行と個人旅行の取り扱いを全面停止し、日本査証代行業務もすべて中止した。旅行社の公式サイト上では「日本」「東京」などの検索結果がすべて削除され、未出発の利用者には手数料なしで全額返金が認められている。
大手民営旅行社も新規の日本行き商品を停止し、利用者からは払い戻しや日程変更の相談が相次いでいる。中国で日本は最も人気の高い海外旅行先の一つであり、2025年1〜9月の中国人訪日客は748.72万人と前年同期比42.7%増で最大の訪日客源国だった。しかし、今回の外交摩擦を受けて訪日需要は急速に冷え込んだ。
緊張の背景と政治的文脈については、「人民日報が高市首相を異例の全面批判」や「高市首相発言に中国が激しく反発」でも詳述している。
政治的対立が経済を直撃 航空・観光・文化交流に波及
今回の急減は単なる旅行需要の変動ではなく、政治的メッセージと経済的制裁を兼ねた「対日シグナル」とみられる。中国は過去にも外交関係が悪化した際、旅行団の停止やビザ制限を政策的に用いてきた。今回も大型旅行社が一斉に日本向け業務を中断した背景には、中国政府の強い意向が働いた可能性が高い。
外務省が緊張緩和を図るため高官を北京に派遣したが、「首相発言撤回には応じず」とする姿勢は変わっていない。さらに中国では一部外交官による過激な発言も確認され、「中国総領事の『斬首』示唆発言」など、社会不安を助長する事例が相次いでいる。
日中関係の悪化は、航空輸送、旅行、文化交流、留学、安全保障など広範な領域に波及する懸念が強まっている。
[出典]
・DW中文「中日关系陷入紧张 约50万张赴日机票被取消」
・中央社「中國大型國有旅行社停辦所有赴日旅遊業務」

