
米ワシントンのシンクタンク「戦略国際問題研究所(CSIS)」は10月27日、黄海の韓中暫定措置水域(PMZ)で、中国海警船が韓国調査船を15時間にわたり追尾・包囲したと報告した。韓国海洋水産省の調査船「オンヌリ(Onnuri)」号が、中国が設置した養殖用構造物「深藍1号」「深藍2号」に接近した際、中国海警船2隻が左右から取り囲んだという。
この報告は、米シンクタンクの分析プラットフォーム「Beyond Parallel」がニュージーランドの海事情報会社Starboard Maritime IntelligenceのAIS(自動船舶識別システム)データをもとに公表したものだ。
暫定措置水域とは―EEZ重複が生む「グレーゾーン」
PMZは、韓国と中国の排他的経済水域(EEZ)が重なる係争海域である。2001年に両国は協定を結び、漁業と航行のみを認め、それ以外の活動を禁止した。
しかし、近年中国は「養殖目的」を名目に大型構造物を相次いで設置しており、韓国側は「事前協議に反する一方的行動」と反発している。
CSISは、「中国の行為は国連海洋法条約が保障する航行の自由原則に明確に違反する」と指摘。南シナ海での対フィリピン戦術などと同様、軍事衝突を避けながら支配を既成事実化するグレーゾーン戦術と位置づけた。
中国の主張と韓国側の警戒
中国政府は、これらの施設が「漁業・養殖目的であり、国際法にも国内法にも適合する」と主張する。
一方、韓国側は「実際には監視や海洋資源調査を兼ねた軍民両用施設ではないか」と疑念を強めている。
韓国国会によると、2020年以降、中国は135件の韓国海洋調査のうち27件に干渉しており、5件に1件の割合で介入が発生している。
また、2018~2023年に中国が黄海全域に13基の海洋観測ブイを設置したことも確認されており、長期的な戦略利用を懸念する声が上がる。
黄海に広がる中韓の摩擦構造
黄海および東シナ海では、中国・韓国・日本のEEZが複雑に重なり、石油やガスなどの資源開発権をめぐる摩擦が続く。
韓国海警は2022〜2024年の間に、済州島周辺で違法操業の中国漁船35隻を拿捕しており、取り締まり強化とともに外交摩擦も激化している。
また、中国の「深藍」構造物の近くには、水没岩礁「離於島(イオド)/蘇岩礁(スーヤン礁)」が存在し、両国がEEZの主権を主張する象徴的な地点となっている。
韓国は2003年に「離於島海洋観測センター」を建設したが、中国はこれを「一方的かつ違法な行為」と非難した。
(関連ページ:
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習近平訪韓を前に高まる緊張
今回のCSIS報告は、習近平国家主席が約11年ぶりに韓国を訪問し、慶州で開かれるAPEC首脳会議に出席する直前に発表された。
外交関係者の間では、「北京が黄海での既成事実化を進める一方、ソウルも航行の自由を譲らない姿勢を強めている」との見方が出ている。
この報告が発火点となり、中韓関係は安全保障・漁業・外交を含む複合的対立構造に再び戻る可能性が高い。
韓国メディアによれば、中国はさらに最大12基の鋼鉄構造物を新設する計画を進めており、そのうち1基は高さ・幅ともに約50メートルに達するとされる。
ソウルはこうした動きに対し、海洋監視体制の強化を進めており、事実上の**「黄海監視戦」**が始まりつつある。
[出典]
中央通訊社(CNA)
South China Morning Post(SCMP)
[関連情報]
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新華社:中国海警の活動報告(中国語)
ロイター:South Korea protests Chinese coastguard intrusion

