
中国国際航空便でリチウムイオン電池が自然発火、機内に煙が充満
10月18日午前、中国国際航空(国航)の杭州蕭山国際空港発ソウル・仁川行きCA139便の客室で、乗客の手荷物内にあったリチウムイオン電池が自然発火した。客室上部の手荷物棚から炎が上がり、乗務員が水と消火器で消火した。けが人はなかったが、火元付近の棚は黒く焦げ、安全確保のため同機は上海浦東国際空港に緊急着陸した。
乗客は「突然“ボン”という音とともに火が出て、客室全体が煙に包まれた」と証言した。CA139便は9時47分に杭州を離陸し、11時05分に浦東へ着陸。国航は別機を手配し、15時03分に再出発、17時30分に仁川に到着した。
民航局が3C認証制度を厳格化 リチウムイオン電池の機内持ち込みを制限
中国民航局は6月28日から、3C認証(中国強制認証制度)を取得していない、表示が不明瞭、またはリコール対象となったモバイルバッテリーやリチウムイオン電池の国内線持ち込みを禁止している。リチウムイオン電池の預け入れは禁止され、手荷物として持ち込む場合は定格エネルギー100Wh以下に限られる。100〜160Whは航空会社の承認が必要で2個まで、160Whを超えるものは持ち込み不可と定めている。
飛行中はモバイルバッテリーを使って電子機器を充電することや、充電器自体を充電する行為も禁じられている。電源スイッチ付きの製品は常時オフにする必要がある。
今年3月には香港航空のHX115便でも手荷物棚内の発火があり、福州長楽国際空港に緊急着陸した。香港民航処はその後、外付け充電器の機内使用を全面的に禁止した。
熱暴走による火災リスク リチウムイオン電池の安全課題
専門家によると、リチウムイオン電池は短絡、圧迫、製造不良などが原因で「熱暴走」を起こすと、急激に発熱・発煙して火災や爆発を引き起こす恐れがある。機内は密閉空間で酸素が限られ、有毒ガスや粉じんが発生しやすく、乗客が密集する環境では恐怖と混乱が拡大しやすい。
中国民航局は2024年12月に改訂した「客室運行管理」規定で、客室乗務員にリチウムイオン電池火災への対応訓練を義務づけた。航空会社には、火災発生時の初期消火手順や酸素供給確保を含む緊急対応マニュアルの策定が求められている。
損害補償と法的責任 航空会社と製造業者の対応焦点に
事故後、一部ネット上では「国航が乗客に補償すべきだ」との声が上がった。しかし民航当局の「八該一反対」原則では、安全を脅かす事態では「返航や着陸をためらわない」ことが義務とされている。
上海瀛東法律事務所の張姗姗弁護士は「航空会社は旅客の手荷物中のリチウムイオン電池火災で設備損傷や緊急着陸が生じた場合、所有者に損害賠償を請求できる」と述べる。荷物所有者は支払った賠償金について、電池メーカーに求償する権利がある。
「航班正常管理規定」第29条では、天候や突発事件など航空会社以外の要因による遅延や欠航の場合、航空会社は食事や宿泊を手配するが、費用は旅客負担とされている。
中国製リチウムイオン電池の品質問題が浮上 安全基準見直しへ
今回の発火事故は、中国製リチウムイオン電池の品質管理体制に改めて疑問を投げかけた。江蘇省などの中小メーカーによる低品質品が市場に出回り、出火事故の一因になっていると指摘される。安価競争が品質低下を招き、国際的な信頼を損ねる懸念もある。
中国当局は製造・流通段階での検査体制を強化し、3C認証を通過していない製品を排除する取り組みを加速している。リチウムイオン電池はEV産業や再生エネルギー分野にも不可欠な戦略物資であり、安全基準の確立は産業全体の信頼性確保に直結する。今回の事故は、その転機を象徴する事例といえる。
[外部リンク]
・新京報|国航航班因锂电池自燃备降,乘客回忆:客舱都是烟
・星島頭條|國航客艙行李架現明火備降
[内部リンク]
・【特集】中国製モバイルバッテリー問題 発火事故から経営危機へ
・中国製モバイルバッテリー発火 江蘇企業製品が主因か
・モバイルバッテリーが爆発炎上 比旅客機が緊急着陸