英米政府、カンボジア太子集団を制裁 暗号資産150億ドル凍結

米英両政府は10月14日、カンボジアの太子集団(Prince Group)と創業者の中国人・陳志を国際犯罪組織として制裁し、総額150億ドル(約2兆4600億円)の暗号資産を凍結した。米司法省によると、37歳の陳志は逃亡中で、同集団は30カ国以上に関連企業を展開。表向きは不動産開発や金融サービスを手掛けながら、裏ではアジア最大級の暗号資産詐欺ネットワークを形成していた。

同グループはカンボジア各地に少なくとも10カ所の「詐欺園区」を運営。外国人労働者を高給職の名目で募集し、現地で拘束・監禁したうえで、SNSなどを使った「殺豚盤(恋愛・投資詐欺)」を強要していた。暴力を伴う強制労働により、世界中の投資家から数十億ドルを詐取したとされる。陳志自身も暴行や指示に関与し、「殺さないように」と部下に命じた記録が残る。


太子集団の実態は「企業を装った国際詐欺網」

太子集団はカンボジアを拠点とする複合企業グループで、不動産、金融、観光、教育を名目事業に掲げていた。だが、米英当局はこれを「企業を装った国際詐欺ネットワーク」と断定。カンボジアの政財界に深く食い込み、官僚への賄賂を通じて詐欺活動を黙認させていたとみられる。

米ブルックリン連邦地裁は陳志を通信詐欺と資金洗浄の罪で起訴。有罪となれば最長40年の懲役が科される。米財務省は関連する146の個人・法人を制裁対象に加え、英国も太子集団と関連取引所を資産凍結の対象にした。英国政府はロンドン北部の豪邸(約23億円)を押収し、陳が英領ヴァージン諸島などで設立したペーパーカンパニーを通じ、1億ポンド規模の不動産投資を行っていたと発表した。


台湾にも波及 資金洗浄ネットワーク拡大

米司法省は陳が台湾でも資金洗浄を行っていたと指摘。太子集団関連企業を通じ、1日で9億1000万台湾元(約44億円)を不正入金した記録があるという。台湾には陳が関係する9社が存在し、そのうち8社が台北市大安区の高級マンション「和平大苑」に登記されていた。これらは同一人物が名義上の代表となっており、実質的に資金移動の拠点だったとみられる。台湾当局は陳が過去10回入国していたにもかかわらず、所在を把握できなかった。


国際協調で詐欺網一掃へ

太子集団事件は、東南アジアに広がる中国系詐欺組織への国際的な包囲網を象徴する。ミャンマー北部では、同様の詐欺園区を支配していた「明家」一族の主犯ら11人に死刑判決が下された(関連記事:ミャンマー北部の中国マフィア「明家」11人に死刑判決)。また、ミャンマー国境地帯では約10万人が詐欺労働に従事させられており(参考:中国人運営のミャンマー特殊詐欺団、10万人を使役)、中国、タイ、ミャンマーなど6カ国が「第2次壊滅作戦」で連携を強化している(参照:特殊詐欺団めぐり6カ国が会合)。

米英政府の制裁は、暗号資産を悪用した越境詐欺の抑止と、資金の流れを可視化する国際的な取り組みの一環だ。暗号資産の匿名性を悪用した犯罪は東南アジアで拡大を続けており、今後は各国が法執行・金融規制の連携を強化する必要がある。


カンボジア経済と政治への影響

太子集団はカンボジア経済の象徴的存在でもあり、フン・セン前首相やフン・マネット現首相の顧問として陳志が活動していた。爵位を授与されるなど政商関係を築き、経済開発プロジェクトや外国投資誘致の表舞台にも登場していた。しかし、今回の制裁により、カンボジアの投資環境と国際的信用は大きく揺らぐ。今後、同国政府がどこまで透明性を高め、企業監視体制を強化できるかが焦点となる。


[外部リンク]
中時新聞網:太子集団陳志、台湾でも金流操作
ドイチェ・ヴェレ:英米制裁、太子集団詐欺帝国の闇


[内部リンク]
ミャンマー北部の中国マフィア「明家」11人に死刑判決
中国人運営のミャンマー特殊詐欺団、10万人を使役
特殊詐欺団めぐり6カ国が会合

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