
オランダ政府が中国系半導体メーカーを接収 事実上の管理下に
オランダ政府は9月30日、中国の聞泰科技傘下の半導体メーカー、ネクスペリア(安世半導体)を国家安全上の理由で接収した。オランダ経済省は「企業内部に深刻な統治上の欠陥があり、欧州の重要技術の安全が脅かされている」と説明し、《商品供給法》を初めて発動した。政府は同社の資産や知的財産、人員などの調整を1年間凍結し、経営を事実上掌握した。
企業裁判所は、聞泰科技の実質支配者である張学政氏の職務停止を命じ、裁判所が指名する外国籍取締役に決定権を付与した。ネクスペリアの全株式(1株を除く)は管理目的で信託に移された。欧州メディアは「前例のない国家介入」と報じた。
中国政府は報復措置 輸出禁止を通達
オランダ政府の決定から間もなく、中国政府は10月4日、商務部を通じて報復措置を発表した。ネクスペリア中国法人および関連企業に対し、「中国で生産された特定の半導体部品やサブモジュールの輸出を禁止する」と通達した。ネクスペリアは「当局と積極的に協議を続けている」とコメントしたが、供給網への影響は避けられない見通しだ。
聞泰科技は声明で「供給網安全を口実とした不当な干渉であり、正常に経営する企業に対する政治的な外部接収だ」と反発した。さらに「地政学的偏見に基づく差別的措置だ」と抗議し、「外国籍幹部が法的手続を通じて経営権を奪おうとしている」と非難した。
背景に米国の「50%ルール」 欧州にも連動
今回の動きは、米国による制裁拡大と連動している。米商務省は9月29日、聞泰科技が50%超を出資する子会社にも輸出規制を適用する「50%ルール」を発表した。これにより、エンティティ・リスト掲載企業の支配下にある企業も自動的に制裁対象となった。
フィナンシャル・タイムズは「オランダ政府の措置は米国の発表直後に行われた」と報じ、ブルームバーグも「中欧の技術摩擦を一段と激化させる」と分析した。オランダ政府は「米国の関与はなく、時期の一致は偶然」と説明しているが、欧米の対中協調強化の一環とみられている。
ネクスペリアと聞泰科技の位置付け
ネクスペリアはオランダ・ナイメーヘンに本社を置き、自動車や家電向けの汎用半導体を手がける。前身はオランダのNXPセミコンダクターズの標準製品部門で、2019年に聞泰科技が買収した。2024年の売上高は147億元で、聞泰科技全体の約6分の1を占める。
聞泰科技はスマートデバイスや車載電子を中心にグローバル展開を進めてきたが、米国制裁の影響で海外事業の一部縮小を迫られている。英国政府も2022年11月、「国家安全」を理由にネクスペリアによる現地半導体メーカーの買収を阻止していた。
欧州の技術安全戦略と中国の反発
欧州委員会は「オランダ当局と緊密に協議し、欧州の重要技術能力を守る」と表明した。欧州シンクタンク「ジャック・ドロール研究所」は「経済安全保障を自由市場原則より優先した」と指摘し、政策の政治化を懸念した。
中国外交部の林剣報道官は13日、「国家安全の濫用や特定企業への差別的措置に断固反対する」と述べた。中国商務部も「米欧による技術封鎖は極めて悪質な措置であり、中国は必要な対抗措置を取る」と強調した。
欧米の技術規制は広がりを見せており、台湾や韓国を含むサプライチェーンにも波及する可能性がある。今後は欧州企業の対中投資戦略や、半導体素材・設備輸出の枠組みにも影響が及ぶ見通しだ。
[外部リンク]
・ドイチェ・ヴェレ中国語版
・香港01
・観察者網
[内部リンク]
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