米国、中国船に港湾利用料 4月決定を受け発動

米国通商代表部(USTR)は10月14日、中国関連船舶を対象に港湾利用料の課徴を開始した。バイデン政権下で実施した301条調査の結果、中国が不公平な政策により世界の海運・物流・造船分野を支配していると結論づけ、USTRは4月17日に課徴方針を発表していた。2026年までに徴収総額は32億ドルに達する見通しで、その約半分を中国遠洋運輸集団(COSCO)が負担するとみられる。
米国の狙いは、中国主導の造船業支配を抑制し、国内造船産業を再建することにある。対象は中国関連の貨物船、コンテナ船、タンカーなどで、米国港に入港する際に港湾サービス料を支払う仕組み。トランプ政権下で打ち出された製造業回帰政策の延長線上にあり、海運を通じて経済安全保障を強化する意図がある。
中国、報復として「特別港務費」を導入
これに対し中国交通運輸省は10日、米国関連船舶に対する「船舶特別港務費」を発表し、14日から実施した。対象は米国籍船舶や米国建造船舶、米企業が出資・運営する船舶で、初年度は1総トン当たり400元、2028年4月17日には1120元に引き上げる。中国で建造された船舶や修理目的の空船は免除対象となる。
中国商務省は声明で「米国の措置は供給網の安定を損ない、国際貿易コストを押し上げる」と非難。報復措置は「中国海運企業の正当な権益を守るための正当な反制」と位置づけた。発表後、国際海運運賃は下落し、市場は応酬の長期化を警戒している。
世界の1割超が影響 第三国企業にも波及
米投資銀行ジェフリーズによると、相互課徴により世界の原油タンカーの13%、コンテナ船の11%が影響を受ける。ギリシャの海運調査会社Xclusiv Shipbrokersは「報復の連鎖が物流ルートをゆがめ、世界貿易を不安定化させる」と指摘した。
さらに中国は、韓国の造船大手・韓華海洋(ハンファ・オーシャン)の米国子会社5社を制裁リストに追加。韓華海洋は2024年末に米フィラデルフィア造船所を1億ドルで買収し、米海軍と艦艇整備契約を締結するなど、米韓連携を強化している。制裁を受けて同社株は最大8%下落した。
米中両国の対立は、製造・通信・半導体を超え、海上物流というインフラ領域に拡大した。航運業界では、コスト上昇が輸送価格に転嫁され、世界インフレを加速させる可能性があるとみられている。
海上に広がる産業覇権争い
米国の商船保有比率は世界の2.9%、造船総トン数は0.1%にすぎない。トランプ政権は「米国製造業の再興」を掲げ、海運・造船を経済安全保障の柱とする政策を推進している。一方、中国は世界最大の造船国として、国有企業中心に供給網を強化しており、両国の構造的対立が長期化する公算が大きい。
今回の港湾費応酬は、陸上関税に続く「海上の貿易戦」として、世界物流システムの再編を迫る。産業覇権の主導権争いが激化するなか、国際貿易の中立性が揺らぎつつある。
[外部リンク]
・【中央社】美中互徵海運港口費 分析憂貿易戰延燒扭曲全球貨運流向
・【ドイチェ・ベレ】美中貿易戦因稀土升級後趨緩 特習會仍在計畫中
・【明報】華港口費減辣 美企中國船豁免 中美昨起互加徵 北京強調屬反制
[内部リンク]
・米中貿易戦、レアアース摩擦で再燃 中国「二重基準」と反発
・米経済界が対中「強硬策」要求 ホワイトハウスの軟化懸念
・トランプ氏、10月APECで習近平氏と会談へ
・中国造船業の世界戦略分析
・中国の物流・海運戦略の現状