
詐欺資金100億元超、14人死亡 ミャンマーと合同摘発で拠点壊滅
中国浙江省温州市中級人民法院は2025年9月29日、ミャンマー北部コーカン地区を拠点とする明家犯罪集団事件の一審判決を公開した。主犯格の明国平、明珍珍、周衛昌、巫鴻明、呉森龍、傅雨彬ら11人に死刑を宣告し、事件の全容があらためて浮き彫りとなった。
判決では、楊正喜、傅成志ら5人が死刑(執行猶予2年)、羅建章、邱智ら11人が無期懲役、畢会軍、蒋吉ら12人が24年から5年の有期懲役刑を受け、罰金や財産没収、国外追放などの付加刑も科された。今回の裁判は160人以上の傍聴者を集め、中国国内での関心の高さを示した。
判決によれば、2015年以降、明学昌(自殺死亡)、明国安(別件処理中)、明国平、明珍珍ら家族の中核メンバーを中心に、畢会軍ら親族や周衛昌ら武装頭目を従えて組織化。家族の影響力と武力を背景に、コーカン地区の老街、石園子、清水河に複数の犯罪拠点を設立した。そこに巫鴻明、羅建章、蒋吉ら資金提供者を招き入れ、武装による庇護を提供。結託して電信詐欺、カジノ経営、麻薬取引、売春組織などを展開した。
この一連の違法ビジネスで動いた関与資金は人民元100億元(約2000億円)を超え、中国国内でも過去最大規模の詐欺事件と位置づけられている。
明家犯罪集団は管理に従わなかった詐欺関与者を暴力で制圧し、10人を殺害、2人を負傷させた。さらに2023年10月20日、中国への移送を阻止する過程で発砲事件を起こし、4人が死亡、4人が負傷。計14人が死亡する重大事件に発展した。法院は詐欺罪、故意殺人罪、故意傷害罪など14の罪名を認定した。合同作戦で主要メンバー拘束
中国公安当局は2023年11月、明国平、明菊蘭、明珍珍らを公開手配。ミャンマー当局の協力で3人を逮捕し中方に移送した。首謀者とされた明学昌は追跡中に自殺した。押収された証拠は膨大で、記録は1110冊、証拠類1万5000点、電子データは50TB超に及んだ。
中国とミャンマーは同年7月から合同で取り締まりを強化し、「四大家族」と呼ばれる武装詐欺勢力を重点的に摘発。公安省高官が国境地帯を視察し、摘発状況を確認する動きもあった【中国公安省高官、ミャンマー詐欺団摘発を視察】。
2024年4月までに中国籍の関与者5万5000人超が拘束され、コーカン地区に広がっていた詐欺拠点は壊滅、犯罪規模は42%縮小した。同時期には、ミャワディ地区で中国人が運営する36の特殊詐欺団が10万人を動員して活動していたとの報道もあり【中国人運営のミャンマー特殊詐欺団、10万人を使役】、問題の根深さが浮き彫りになった。
産業化した「詐欺園区」
明家は資金提供者を呼び込み、臥虎山荘、路易国際、玉祥国際集団など「園区」と呼ばれる複合拠点を展開。そこでは詐欺活動と賭博、売春が組織的に行われ、産業化・集団化した犯罪モデルを形成した。公安当局は「明家の特徴は地元に根を張った勢力と武力を使い、徹底的に管理した点」と指摘する。
ミャンマー北部の電信詐欺は中国国内で被害者が相次ぎ、社会問題化していた。今回の判決は国際的に問題視されてきた武装詐欺集団への制裁の節目と位置づけられる。ただしコーカン以外の地域や第三国に拠点を移すグループも存在する。さらに、中国とミャンマー軍事政権が共同で警備会社を設立する可能性も報じられており【中国がミャンマー軍事政権と警備会社設立か】、治安・安全保障への影響は今後も注視が必要だ。
中国司法当局は「人民の生命財産を守る姿勢を鮮明に示した」と強調するが、越境犯罪対策の長期化は避けられず、国際協力のさらなる深化が求められている。