背景:李強総理と商務部の発表
2025年9月23日、中国の李強・国務院総理は国連の会議で、中国が今後の世界貿易機関(WTO)交渉において新たな「発展途上国としての特別かつ差別的待遇(SDT)」を求めないと明らかにした。翌24日には、商務部の李成鋼・国際貿易交渉代表兼副部長も会見で同様の立場を示し、「中国は依然として世界最大の開発途上国であり、その地位は変わらない」と強調した。
この表明は、米国が求めてきたWTO改革への圧力をかわし、多国間貿易体制を支持する姿勢を国際社会に示す狙いがあるとみられる。
台湾研究機関の見解:「市場経済地位」こそ重要
台湾のシンクタンク、中華経済研究院の王国臣・助研究員は「中国が本当に重視しているのは途上国待遇ではなく、市場経済国として認められることだ」と分析する。
欧米が中国を市場経済国と承認していないため、反ダンピング調査では第三国の価格が基準に使われ、中国製品は不当に安値と認定されやすい。その結果、追加関税などの制裁を受けるリスクが常に高い。市場経済地位の承認がなければ、中国にとって不利な貿易環境は続くと警告している。
北京の大学の見解:積極的な国際姿勢
一方、北京の対外経済貿易大学でWTO研究院を率いる屠新泉院長は「中国が実際に受けてきた途上国優遇は限られており、今回の表明は交渉を前に進める前向きな動きだ」と評価した。
WTOには155項目の特別待遇規定があるが、中国が享受したのは15項目に過ぎない。その中で実効性があるのは農業補助金の「微量許容条項」であり、中国は途上国基準の10%ではなく8.5%しか適用を受けていない。さらにコロナ禍のワクチン知財権免除や貿易円滑化協定でも中国は特別待遇を放棄しており、実際の影響は小さかったという。
米国との対立とグローバル・サウス
米国は「中国や他の主要経済国が途上国待遇を放棄しない限り、WTO改革は進まない」と批判してきた。SDTが不公平な優位を与えているとの指摘は強く、中国に全面的な放棄を求めている。
しかし中国は「開発途上国としての立場」を政治的定位と位置づけ、グローバル・サウスの一員としての結束を強調する。第三世界国家として出発した歴史的経緯や、西側先進国への警戒感が背景にある。
今後の展望:交渉推進と課題
今回の方針転換は、国際社会における中国の責任ある立場を印象づけ、交渉を前進させる可能性が高い。特に米国が保護主義に傾く中で、中国が自由貿易を主導する役割を担えるかが注目される。
ただし、市場経済地位の未承認という根本的課題は解消されておらず、中国の貿易環境に不利な状況が続く可能性もある。今後はWTO改革の動向とともに、中国の交渉戦略が国際貿易の行方を左右するだろう。