中国が黄岩島に国家級自然保護区を設置

中国国務院は9月10日、南シナ海の係争地である黄岩島に「国家級自然保護区」を設けることを承認した。国務院は関連文書で「黄岩島の生態系の多様性、安定性、持続性を守るための重要な保障」と強調し、違法行為の監督と取り締まりを強化するとした。
国家林業・草原局の発表によれば、保護区は海南省三沙市に属し、総面積は3523.67ヘクタール。うち核心区が1242.55ヘクタール、実験区が2281.12ヘクタールで、主な保護対象はサンゴ礁生態系である。
フィリピンは「違法かつ不当」と抗議
この決定に対し、フィリピン外務省は声明で中国による保護区設置を「不当で違法な行為」と非難した。正式な外交抗議を行うと表明したほか、国家安全保障顧問アニョ氏は「環境保護を名目にした正当化で、最終的な占領への布石だ」と批判した。
関連して、フィリピンと中国の南シナ海摩擦に関する記事でも報じたように、両国の対立は年々激化しており、今回の決定はその緊張をさらに高める動きとなっている。
中国「主権範囲内の事」
中国外交部の林剣報道官は11日の定例会見で「黄岩島は中国の領土であり、保護区の設置は中国の主権範囲内の事だ」と主張した。今回の措置は中国国内法および国際法に合致し、「責任ある大国として持続可能な発展を推進する姿勢を示すものだ」と述べた。
さらに林報道官は「フィリピンの領土範囲は国際条約で既に確定しており、黄岩島は含まれていない。中国は不当な非難や抗議を受け入れない」と断言し、フィリピンに挑発の停止を求めた。
度重なる中比衝突と米国の関与
黄岩島はフィリピンのルソン島から約230キロ、中国本土からは約900キロ離れた南シナ海東部に位置する。2012年以降は中国が実効支配を強め、中比の衝突が続いている。
8月11日には、フィリピン沿岸警備隊が漁船を護送して黄岩島周辺に進出した際、中国海警船や軍艦が阻止した。この過程で中国海警3104号がフィリピン巡視艇を追跡中、解放軍駆逐艦「桂林」(艦番号164)と衝突し、艦首が大破した。フィリピン側は「中国人2人が死亡した」と主張している。
さらに8月13日には、中国人民解放軍南部戦区が「米海軍駆逐艦ヒギンズが中国政府の許可なく黄岩島領海に侵入した」と発表し、国際的な注目を集めた。
こうした事例は、スカボロー礁をめぐる過去の緊張とも共通する構図を持ち、南シナ海情勢の不安定さを象徴している。
背景:国際法と経済的重要性
南シナ海は世界の年3兆ドル超の海上貿易が通過する戦略的要衝である。中国はほぼ全域に主権を主張しているが、2016年にハーグ常設仲裁裁判所は中国の広範な主張を否定する裁定を下した。中国はこれを受け入れていない。
フィリピンやベトナム、マレーシア、ブルネイ、インドネシアなども同海域で権益を主張しており、国際社会の関心は高い。
今後の見通し
今回の保護区設立は、中国が生態系保護を名目に実効支配を正当化する動きとみられる一方、フィリピン側の強い反発を呼び、南シナ海情勢のさらなる緊張を招く可能性がある。
国際社会の注視が続く中で、米国をはじめとする域外国の動向も事態に影響を及ぼすことは避けられない。南シナ海は今後もアジアの安全保障の焦点であり続けるとみられる。
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