【特集】“独裁者の宴” 習近平軍事パレード “米国抜きの世界”と“専制同盟”アピール

 

天安門広場で大規模軍事パレード

 2025年9月3日、中国・北京の天安門広場で「中国人民抗日戦争および世界反ファシズム戦争勝利80周年記念式典」が盛大に開催された。通称「九三閲兵」と呼ばれる軍事パレードは、人民解放軍の陸海空・ロケット軍に加え、武装警察部隊や女性民兵隊列が登場。軍楽隊だけで1000人を超える規模で、横14列の隊形を組んで行進した

 兵器展示では、極超音速ミサイル、輸送機から投入可能な装甲車、無人潜航機、射程1万キロ超とされる「東風61」弾道ミサイルなどが披露され、殲-20や殲-35Aなど最新ステルス戦闘機の飛行も行われた。空警600早期警戒機や空中給油演習も実施され、中国の遠距離投射能力を誇示した。

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 同時に中国は宣伝力も誇示し、国営放送によれば生中継は延べ300億人次が視聴し、85言語で世界配信された。

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巨額費用と市民生活への影響

 台湾メディアの上報は、関係筋の話として、今回の閲兵には総額360億元(約7500億円)が投入されたと伝えた。兵士訓練や燃料などに60億元、治安維持や工場休業補償に290億元が充てられた。北京市では交通・物流が制限され、外食や宅配も規制されるなど、市民生活と経済活動が大きく停滞した。

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「専制同盟」の象徴、独裁者の宴

 ドイツの国際公共放送ドイチェ・ベレ(DW)によれば、天安門の観閲席では習近平国家主席の両脇にはロシアのプーチン大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記が立ち、近くではイランのペゼシュキアン大統領も加わった。欧州連合(EU)のカラス外交安全保障上級代表は「専制同盟がルールに基づく国際秩序に挑戦している」と批判した。西側からは「独裁者の宴」と揶揄する声も挙がった。

 中国側は今回の閲兵を「中国人民の反ファシズム勝利」を祝う式典と位置づけ、平和を大切にする全ての国民に向けた厳粛な儀式だと強調した。しかしその構図は西側には受け入れられなかった。

 ロシアは2022年に開始したウクライナ侵攻を今も続けており、停戦の兆しは見えない。北朝鮮は核開発を加速し、ロシアに兵士を派遣して支援する姿勢を明言している。中国は侵攻を非難せず、ロシア産エネルギーの購入や軍民両用物資の輸出を通じて戦争を下支えしていると見られる。イランは長年にわたりヒズボラやハマス、フーシ派など武装組織を支援してきた。

 英BBC放送のローラ・ビッカー記者は「軍事パレードは米国とその同盟国への軍事的シグナルであると同時に、プーチン氏と金正恩氏に向けた強烈なメッセージだ」と分析した。

国内統制と権力掌握の演出

 DWによれば、軍事パレードを前に北京では人権活動家や陳情者が強制的に隔離され、SNS上で批判的投稿をした市民が拘束される事態もあった。

 上報によれば、習近平は毛沢東式の灰色の中山服をまとい、天安門でプーチンと金正恩を両脇に従えた。2015年の軍事パレードで、江沢民や胡錦濤氏ら歴代指導者を並べた構図から一転し、今回は「反西側結束」の象徴となった。
 
 シンクタンクの米アジア・ソサエティのニール・トーマス研究員は「経済成果に乏しい習近平氏は民族主義を利用して権威を補おうとした」と指摘した。

対米挑戦と新秩序構想

 軍事パレード直前に天津で開かれた上海協力機構(SCO)首脳会議は史上最大規模で、プーチン氏とインドのモディ首相が出席した。

 DWによれば、習近平氏は「世界秩序は混乱している」と述べ、米国の覇権を暗に批判し、「グローバル・ガバナンス構想」を提唱。途上国の発言力拡大や「二重基準の排除」を訴えた。

 台湾メディアの風伝媒によれば、モディ首相の天津出席は、米国への「忠誠」を示したはずのインドが中国に接近している兆しとも受け止められた。中国の友好圏は一帯一路諸国や中東を超え、南アジアへと広がっている。

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トランプ氏の孤立化

  BBCによれば、トランプ前米大統領はSNSで「プーチンと金正恩に私の挨拶を伝えよ」と皮肉を述べ、中国・ロシア・北朝鮮が「米国に対抗して結託している」と非難した。同時に「大戦時に多くの米国人が命を捧げた」とも発言したが、習近平が米国に言及しなかった点には不満をにじませた。
 
 風伝媒は、天津SCO会議から軍事パレードまでの流れを「米国抜きの秩序の胎動」と評し、「トランプは軍事パレードの観客でしかなく、皮肉を言う以外に手立てはなかった」と論じた。

習近平氏が「人生150歳説」

 軍事パレードの進行中、習近平氏とプーチン氏が「臓器移植や延命」について語る様子がオンにしたままのマイク(ホットマイク)に拾われ、プーチン氏が「生物技術で永生は可能だ」と語る場面が生中継された。習氏が「人類は今世紀に150歳まで生きられる可能性がある」と語った発言が広がり、中国のSNSで大きな注目を集めた。

 意図せぬホットマイクの露出は、習近平氏の用意した政治ショーとは別の形で、人々の関心を引きつけてしまった。

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まとめ

 軍事パレードは、中国の軍事力と宣伝力を誇示すると同時に、習近平氏が経済停滞を覆い隠し、権力掌握を誇示する舞台となった。西側には「反ファシズム」の名が響かず、中ロ朝イランが並ぶ姿は「専制同盟」の象徴と映った。ただ、トランプ氏の孤立化も浮き彫りとなり、「米国抜き」の国際秩序の輪郭が示された。一方で巨額の費用と厳しい統制、民族主義の高揚は、中国が直面する内外の圧力を逆説的に示している。

出典

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