中国南部で蚊を媒介とするチクングニア熱の流行が拡大している。広東省を中心に今年夏、過去最大規模の感染が確認され、台湾や香港、マカオでも輸入例や一部本土感染が相次いで報告された。世界保健機関(WHO)は「数十億人が感染リスクにさらされている」と警告し、国際的な警戒が強まっている。

広東省仏山市では8月9日時点で累計9103人の感染が報告された。患者の大半は軽症で、重症例や死者は確認されていない。感染者の95%以上が仏山市に集中し、広州市や省内の他都市にも拡大した。洪水や大雨による蚊の大量発生が流行を後押ししたとみられる。
地元当局は蚊帳付き病床での隔離、ドローンを使った繁殖源調査、幼虫を捕食する魚や遺伝子改変蚊の導入などを進め、流行はピークを過ぎつつあるとされる。
香港や台湾にも拡大
隣接地域にも影響が及んでいる。台湾では8月上旬までに累計17件の輸入症例が報告され、そのうち1件は広東省からの帰国者だった。国内感染は確認されていない。
香港では8月に入って輸入症例が9件に達し、広東省から戻った男性も含まれるほか、本土感染の疑い例も出ている。マカオでは7月下旬以降に複数の輸入例が報告され、8月1日には初の国内感染が確認された。各地域は監視や防蚊対策を強化し、住民に注意を呼びかけている。
世界的な感染拡大と警戒
台湾の疾病管制署によると、国内のチクングニア熱はすべて輸入例で、7月22日時点で累計15件。感染地はインドネシアが13件、フィリピンとスリランカが各1件で、過去6年で最多水準となった。疾病管制署は中国広東省、ブラジル、仏領レユニオン島を「第2級警戒」とし、フィリピン、インドネシア、インド、スリランカ、アルゼンチン、ボリビアを「第1級注意」とする渡航警戒を発表している。
WHOは7月22日に中国南部の流行を受けて各国へ警告を発した。チクングニア熱はアフリカやアジアを中心に断続的に流行してきたが、近年は気候変動の影響で媒介蚊の分布域が拡大している。ワクチンは一部の国で承認されているものの、広く普及していない。
世界全体では、6月時点で16の国と地域で累計約24万人が感染し、90人が死亡した。インドやスリランカなど南アジアで数万件が報告され、欧州でも渡航者による感染が相次いでいる。英国では今年上半期だけで73件の輸入例が確認され、過去最多となった。台湾の疾病管制署は8月に「世界の累計患者数は25万例を超えた」と更新し、国際的な感染拡大が続いていると指摘した。
チクングニア熱とデング熱との違い
チクングニア熱は突然の発熱、関節痛や関節炎(特に手足の小関節、手首、足首)、頭痛、吐き気、嘔吐、倦怠感、筋肉痛を伴い、約半数の患者に発疹が現れる。症状は3〜7日間続くのが一般的だ。
デング熱と異なる特徴として、一部の患者では症状が数週から数か月、長ければ数年続くことがある。強い関節痛で歩行が困難になる例も報告されている。死亡はまれだが、新生児や高齢者、糖尿病や心疾患を抱える人は重症化リスクが高い。
特効薬は存在せず、症状に応じた支持療法(安静、水分補給)が中心となる。
広州の蚊、殺虫剤に耐性
広東省、特に広州市では蚊が常用されるピレスロイド系殺虫剤に対して100%耐性を示しているとの報告がある。薬剤耐性の拡大により効果を維持するには使用量を増やさざるを得ず、悪循環に陥る危険性が指摘されている。
さらに、殺虫剤の急激かつ大量使用は蚊の天敵であるトンボなど生態系への影響を引き起こす恐れがある。こうした課題を受けて、絶殖蚊や食蚊魚の投入といった生物学的制御手段の併用が推奨されつつある。
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