米中、AIモデル「蒸留」で対立激化 米が中国AI企業への制裁検討、中国は「AI覇権主義」と反発

2026年7月28日

 米国が中国の人工知能(AI)企業に対し、米国製AIモデルを「蒸留(ディスティレーション)」して開発した疑いがあるとして調査や制裁を検討していることを受け、中国商務省は27日、「典型的なAI覇権主義の行為だ」と強く反発した。中国側は、米国が制裁を実施した場合には必要な対抗措置を講じる考えを示した。聯合報、工商時報、中央社、ドイツ公共放送ドイチェ・ベレ(DW)などが報じた。

米国、AIモデル蒸留を巡り制裁を検討

 発端となったのは、ベッセント米財務長官ら米政府高官が、中国AI企業が米国の最先端AIモデルを「蒸留」し、知的財産権を侵害している疑いがあるとして調査を進めていると明らかにしたことだ。

 ベッセント財務長官は、金融制裁や米商務省の輸出規制対象である「エンティティ・リスト」への追加も選択肢になるとの考えを示した。「米国はオープンソースAIを支持するが、それは米国の知的財産権を自由に利用してよいことを意味しない」と述べ、中国企業による「産業規模での蒸留」が知的財産権侵害に当たる場合には、制裁やエンティティ・リストへの追加を検討すると強調した。

 蒸留は、大規模で高性能なAIモデルの出力結果を利用して別のAIモデルを学習させる技術で、AI業界では広く利用されている。一方、米政府は、中国企業がこの手法を利用して米国企業の独自AIモデルを不正に複製している疑いがあるとみている。

中国商務省「AI覇権主義」と反論

 これに対し、中国商務省は27日夜、公式サイトで記者の質問に答える形で声明を公表した。

 声明では、「中国側は一貫して、米国が科学技術や経済・貿易問題を政治問題化、手段化し、根拠のない理由で中国企業を中傷し制裁することに反対している」と表明。その上で、中国企業のAIモデルは米国最先端モデルと公開時期が非常に近く、一部モデルは性能面でも世界の先頭集団にあると主張した。

 さらに、中国企業に「蒸留」や「米国の知的財産権の盗用」といったレッテルを貼ることは、事実上の根拠も法的根拠もなく、運用面でも二重基準であり、「典型的なAI覇権主義の行為だ」と批判した。

 また、「イノベーションはどちらか一方の専売特許ではない」と強調し、中国AI企業は長年にわたり基礎研究を進め、科学技術の自立自強と国際協力を両立させながら発展してきたと説明。「把握している限りでは、多くの米国AI企業も研究開発や学習の過程で中国のAIモデルを蒸留している」と主張した。

米産業界でも制裁反対の声

 中国商務省は、米国産業界でも中国AI企業への制裁に反対する声が上がっていると指摘した。

 約200社の米スタートアップ企業が、中国のオープンソースAIモデルへのアクセスを遮断しないよう米政府に求めているほか、一部の米大手多国籍企業も、モデルの蒸留はAI業界で広く利用されている技術であり、米企業が中国のオープンソースAIモデルを利用できるよう認めるべきだとの考えを示しているという。

 中国商務省は、米国に対し、中国企業への中傷や制裁の脅しをやめるよう求めるとともに、「中国側の利益を実質的に損なういかなる行為に対しても、必要なあらゆる措置を講じ、自国の正当かつ合法的な権益を断固として守る」と強調した。

焦点は「月之暗面」とKimi K3

 今回の対立では、中国AIスタートアップ「月之暗面(Moonshot AI)」が開発した大規模言語モデル「Kimi K3」が焦点となっている。

 米ホワイトハウス科学技術政策局(OSTP)のマイケル・クラツィオス局長は、米政府が把握した情報として、月之暗面が米AI企業Anthropicの最新モデル「Claude Fable 5」を蒸留してKimi K3を開発したと主張した。同局長は、同社が複数のアクセス手段を利用して大規模な蒸留を行い、検知を回避するためのシステムを構築していたほか、NVIDIA製GB300チップ搭載サーバーを利用し、タイ経由で計算資源を使用して学習を行った可能性が高いとの見方を示した。

 一方、Anthropicは今年2月、月之暗面に関連するとみられる340万回を超えるClaudeモデルへのアクセスを確認したと発表した。数百の偽アカウントが推論、プログラミング、データ分析、ツール利用、コンピュータービジョンなどの能力を取得する目的で利用されていたという。

 これに対し、月之暗面は中国メディアに対し、Kimi K3の性能向上は蒸留によるものではなく、基盤アーキテクチャーの独自改良による成果だと説明し、米側の指摘を否定した。

 米国は2019年にも通信機器大手・華為技術(ファーウェイ)をエンティティ・リストに追加しており、今回、月之暗面など中国AI企業が同リストに追加された場合、米国製半導体やソフトウェア、クラウドサービスなどへのアクセスが大幅に制限される可能性がある。

 また、トランプ米大統領は、習近平国家主席が9月24日に訪米し、AI問題について協議する予定であることを明らかにしており、AIを巡るルール形成や技術競争が米中首脳会談の重要議題となる見通しだ。


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