
ラクタリス社による世界規模の自主回収と背景
フランスの乳業最大手であるラクタリス(Lactalis)グループは2026年1月21日、自社が展開する乳幼児用粉ミルクおよび栄養製品について、セレウス菌(仙人掌桿菌)が生成する毒素「セレウリド」が混入した可能性があるとして、世界18の国と地域で大規模な自主回収を実施すると発表した。
今回の回収対象は、主に「Picot」ブランドの6ロットに及ぶ。影響を受ける市場は、フランス本国をはじめ、中国、台湾、オーストラリア、チリ、スペイン、メキシコ、ペルー、ウズベキスタンなど広範囲にわたっている。同社によると、この措置はフランス乳幼児栄養専門協会の警告を受けた「慎重な決定」であり、復元製品の再検査において、外部サプライヤーから供給された原料に毒素が含まれている可能性が浮上したことが直接の原因である。
現時点で健康被害の報告は確認されていないものの、乳幼児という最も脆弱な消費者層を対象とした製品であることから、国際的な乳製品サプライチェーンにおける品質管理の脆さが改めて浮き彫りとなった。
セレウス菌毒素の性質と乳幼児へのリスク
今回問題となっているセレウス菌は、土壌や水中など自然界に広く存在する細菌だが、その毒素であるセレウリドは極めて厄介な性質を持つ。最大の特徴はその「耐熱性」だ。英国食品基準庁の警告によれば、セレウス菌の毒素は調理や沸騰したお湯を用いた調乳過程でも完全に不活性化させることが困難とされる。
セレウス菌による食中毒は、摂取後短時間で吐き気、嘔吐、腹痛、下痢などの症状を引き起こす。特に消化器官が未発達な乳幼児が摂取した場合、重篤な脱水症状に陥るリスクがあり、業界全体での厳格な監視が求められている。
注目すべきは、この問題がラクタリス一社に留まっていない点である。今月17日にはシンガポール食品庁がダノン傘下の「ドゥメックス」製品の回収を発表し、月初にはネスレの欧州子会社も同様の理由でリコールを実施している。大手各社が同時期に同じ細菌の問題に直面している背景には、乳製品の原材料供給源が特定のグローバルサプライヤーに集中しているという構造的問題がある。
問われる品質管理体制と企業の社会的責任
ラクタリス社にとって、今回の事案は過去の失態を想起させる深刻な事態である。同社は2017年から2018年にかけて、数十名の乳幼児がサルモネラ菌に汚染された製品を摂取し、83カ国で1200万箱を回収するという大規模なスキャンダルを引き起こした。当時の事件では、工場の設備管理や当局への報告遅延が厳しく批判され、企業の信頼は失墜した。
今回の自主回収は、過去の教訓から「予防的措置」として迅速に行われた側面もあるが、サプライヤー管理の不徹底という点では依然として課題を残している。特に中国や台湾といったアジア市場では、輸入品の粉ミルクに対する安全意識が極めて高く、こうしたリコールはブランド価値に致命的な打撃を与える可能性がある。
乳製品業界全体の政策意図としては、HACCP(ハサップ)に基づく厳格な工程管理に加え、原材料まで遡ったトレーサビリティの強化が急務となっている。消費者の命を守るための「食の安全」は、もはや一企業のコスト問題ではなく、グローバルに展開する企業の存立基盤そのものであると言える。
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