
英国政府は2026年1月20日、ロンドン市内の旧王立造幣局跡地に中国の巨大な新大使館を建設する計画を正式に承認した。2018年の用地購入から約7年にわたり停滞していたこの問題が決着を見た背景には、スターマー政権が掲げる対中外交の「再起動」と経済実利の優先がある。ドイツの国際公共放送ドイチェ・ヴェレ(DW)などによれば、この新大使館は完成すれば欧州最大級の規模となり、ロンドン塔に近い金融街の重要拠点に位置することになる。
安全保障リスクと「ファイブ・アイズ」の懸念
今回の承認にあたり、最も大きな障壁となっていたのが国家安全保障上の懸念だ。新大使館の予定地であるロイヤル・ミント・コートは、ロンドンの二大金融街である「シティ」と「カナリー・ワーフ」の間に位置し、重要なデータセンターや金融データを伝送する地下光ファイバーケーブルに近接している。
これに対し、米国を含む「ファイブ・アイズ」のパートナー諸国は、重要インフラが中国による間諜活動の脅威にさらされるとして、強い懸念を表明してきた。特に米下院議長らは、この場所が「スパイ活動の拠点」になるリスクを警告し、英国に慎重な判断を求めていた経緯がある。英国政府は今回の承認に際し、情報機関が全プロセスに関与し、リスクを管理するための「包括的な緩和措置」を策定したと説明しているが、具体的な対策の内容は公表されていない。
民主活動家が抱く「監視の拠点」への恐怖
安全保障と並んで深刻なのが、人権保護の観点からの批判だ。DWの取材に対し、英国に亡命している香港出身の民主活動家らは、巨大な施設が海外の反体制派に対する「監視と恐喝の拠点」になるとして強い恐怖を表明している。
特に、北京当局から懸賞金をかけられ指名手配されている活動家らは、ロンドン市内で強制的に大使館内に連れ込まれるリスクを危惧している。活動家の一人は「英国政府が、ここで暮らす人々の安全よりも、対中貿易や関係改善を優先したことは明白だ」と批判を強めている。かつてロンドンの中国総領事館前で発生したデモ隊への暴行事件などの記憶が新しい中、今回の「スーパー大使館」承認は、在英民主派コミュニティに大きな衝撃を与えている。
外交的「地ならし」とスターマー政権の戦略
今回の決定は、1月末に予定されているスターマー首相の訪中へ向けた決定的な「地ならし」であると分析されている。2018年以来、英国首相の訪中は途絶えており、二国間関係は冷え切っていた。中国側はこの建設計画の遅延を「政治問題化している」と非難し続けてきた経緯があり、承認は訪中を成功させるための最低条件であったといえる。
スターマー政権は、国家安全保障において妥協しない姿勢を崩さないとしつつも、気候変動や経済貿易、グローバルな安全保障問題において中国との「成熟した対話」が必要であると強調している。英国の内閣大臣らは、中国側が懸念に対して一定の歩み寄りを見せたことを認めており、ロンドン市内に分散している7カ所の外交施設を1カ所に統合することで、管理面での優位性も生まれると主張している。
しかし、米中の覇権争いが激化する中、英国がとったこの「実務的判断」は、同盟国との足並みの乱れや国内の人権軽視という火種を抱えたままだ。新大使館建設の最終的な決着は、英国がいかにして「経済実利」と「価値観の防衛」を両立させるか、その意志を問う試金石となるだろう。
[出典] ・英批准陸新使館 施凱爾有望訪陸(中時新聞網) ・英國政府有條件批准 中國建「超級大使館」(星島頭條) ・英国批准在伦敦新建中国“超级”使馆(ドイチェ・ヴェレ)
[関連情報] ・北京が英大使館の給水を停止か ロンドン「超大型大使館」承認を迫り圧力か ・中国大使館建設計画、英政府が審査延期 中国が懸念表明 ・英国が中国企業11社を制裁 ロシア支援関与で外交摩擦激化 ・英国当局、香港情報機関に協力の3人起訴
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