カナダ首相が8年ぶり訪中、中加関係の「雪解け」と対米依存脱却への戦略的転換

カナダ首相訪中の背景:8年の沈黙を破る「実務的関係」の再構築

カナダのマーク・カーニー首相は2026年1月14日、就任後初となる中国への公式訪問を開始した。カナダ首相による訪中は2017年以来、実に8年ぶりのことである。両国関係は2018年、カナダ当局が米国の要請に基づき中国通信機器大手・華為技術(ファーウェイ)の孟晩舟副会長を拘束した事件を機に、急速に悪化。中国側によるカナダ人2名の拘束や貿易制裁が相次ぎ、中加関係は「氷河期」と呼ばれるほどの停滞を余儀なくされてきた。

今回の訪問は、長らく途絶えていた首脳レベルの対話を復活させ、冷え切った関係を実務的な次元で再起動させる重要な転換点となる。カーニー首相は出発に際し、「中国はカナダにとって第2の貿易相手国であり、世界第2位の経済大国だ。実務的で建設的な関係の構築は、太平洋両岸に安定と繁栄をもたらす」との声明を発表している。この動きは、2025年10月に韓国・慶州で開催されたAPEC首脳会議において、カーニー首相と中国の習近平国家主席が初の会談を行い、関係改善の兆しを見せていたことの延長線上にある。

経済多様化への切実な要求と「ドンロー主義」への警戒

カナダがこの時期に対中関係の改善を急ぐ背景には、隣国・米国の経済政策に対する強い危機感がある。トランプ第2次政権下で台頭した、米国の利益を最優先し同盟国にも容赦なく関税を課す「ドンロー主義(ドンロー・ドクトリン)」は、対米輸出に依存するカナダ経済にとって致命的な脅威となっている。グリーンランドの支配権を巡る米国の動きや、北極航路の利権争いも、カナダにとっては自国の主権を脅かす要因だ。

このような状況下で、カナダ政府は「対米依存の低減」と「貿易の多角化」を急務としている。中国人民大学の崔守軍教授が指摘するように、中国とカナダ、そして欧州諸国は、米国の自国第一主義による戦後国際秩序の破壊に対抗し、多国間協調を維持するという共通の利害を有している。カナダにとって中国との関係修復は、米国一辺倒の外交から脱却し、経済的な安全保障を確保するための戦略的選択といえる。

貿易摩擦の解消と実務的課題:菜種、EV、そして北極圏

カーニー首相の訪中には、外交、工業、エネルギー、国際貿易、農業の主要5閣僚が同行している。この異例ともいえる大規模な布陣は、今回の訪問が単なる儀礼的なものではなく、具体的な懸念事項の解決を目指した「実務訪問」であることを物語っている。

最大の争点は、近年激化している貿易制裁の応酬だ。カナダは2024年、中国製電気自動車(EV)に対して100%、鋼材に対して25%の追加関税を課した。これに対し中国側は、カナダ産の主要輸出項目である菜種(キャノーラ)に対し、最大75.8%の臨時関税を課すという強力な対抗措置をとっている。サスチュワン州のモー知事が同行していることからもわかる通り、カナダにとって農業分野での輸出再開は国内経済において死活問題である。

また、2018年以来中断している「中加経済財政戦略対話」の再開も議論のテーブルに載る見通しだ。経済・金融分野でのハイレベルな対話チャンネルを復旧させることは、両国の予見可能性を高める一歩となる。さらに、北極圏の航路確保や重要鉱物の供給網といった地政学的な課題についても、米国の圧力が強まる中で、中国との調整が模索されるだろう。

台湾情勢と地政学的な「レッドライン」

関係改善への動きが加速する一方で、地政学的な緊張は依然として影を落としている。カーニー首相の北京到着直前、台湾を訪問中だったカナダ自由党の国会議員2名が、政府の勧告を受けて日程を切り上げ帰国した事実は象徴的だ。これは、首脳訪中という歴史的な局面において、中国側を刺激するような「外交政策の混同」を避けるための、カナダ政府による徹底した配慮の結果といえる。

中国側は、EU法規や国際条約を援用し、欧州諸国に対して台湾の政界人士へのビザ発給を制限するよう圧力を強めるなど、法的なアプローチを強化している。カナダにとっても、台湾問題は中国が設定する「レッドライン」であり、経済利益を優先するためにいかに外交的な均衡を保つかが問われている。カーニー首相の訪中は、かつての対立を乗り越える「雪解け」の第一歩となるのか、あるいは新たな国際秩序の中での一時的な妥協に留まるのか。太平洋を跨ぐ新たな関係構築の行方に、国際社会の注目が集まっている。

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