
中国によるレアアース輸出審査停止の背景と「経済兵器」化
米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は2026年1月8日、中国当局が日本向けのレアアース(希土類)輸出許可審査を全面的に停止したと報じた。この措置は、昨年末の高市早苗首相による台湾有事への関与を示唆する発言に対する直接的な報復とみられている。中国はこれまでも重要鉱物を「経済兵器」として活用してきたが、今回は防衛関連企業にとどまらず、一般産業界全体を対象とした広範な制限に踏み切った点が極めて異例である。
中国商務省は1月6日、軍事転用可能な「軍民両用物品(デュアルユース物品)」の対日輸出管理強化を発表した際、民生用への影響を否定していた。しかし、実際には高価な重レアアースや、電気自動車(EV)のモーターに不可欠な強力磁石の出荷が直ちに制限されている。2026年1月8日には、呉江浩駐日中国大使が日本側の抗議を「国家安全と不拡散義務のため」として退けており、中国政府による強硬な姿勢が鮮明となっている。
日本企業の経済的損失と産業界への深刻な打撃
今回の輸出制限により、日本の製造業が受ける経済的損失は甚大だ。野村総合研究所の試算によると、制限が継続した場合の日本企業の損失は年間で約17億ドル(約2兆5000億円)に達し、わずか3ヶ月の停滞でも約6600億円の損失が生じる可能性がある。特に、重レアアースであるジスプロシウムやテルビウムは中国への依存度が極めて高く、日本のEV産業や電子機器、半導体サプライチェーンにとって代替不可能な打撃となる。
日本は2010年の尖閣諸島沖衝突事件に伴うレアアース危機以降、供給源の多角化を進めてきたが、依然として原料の約6割を中国に依存しているのが実情である。昨年のトランプ政権による対中関税への報復時にも供給が絞り込まれた経緯があり、今回の措置は「許可制度」という既存の枠組みを恣意的に運用することで、いつでも日本の産業界にダメージを与えられることを知らしめる狙いがある。
日本の対抗カードと今後の地政学リスク
日中間の矛盾が激化する中、日本側も一方的に圧力を受けるだけではない。日本は世界シェアの約90%を握る先端半導体用のフォトレジスト(感光材)や半導体製造装置といった、中国のハイテク発展に不可欠な「急所」を握っている。日本総合研究所などの専門家は、これら重要物品の輸出制限が日本側の強力な対抗カード(切り札)になると指摘している。
しかし、日本が対抗措置を講じれば中国のハイテク産業に打撃を与えられる一方で、中国国内でのサプライチェーン国産化を加速させる「諸刃の剣」となるリスクも孕んでいる。日本政府は2026年1月9日現在、中国側の出方を慎重に見極めつつ、東シナ海でのガス田開発といった他の懸案事項も含めた総合的な外交交渉を継続する方針だ。米中関係の推移を含め、米国が同盟国である日本をどこまで支援するかが、今後の事態沈静化の鍵を握ることになる。
[出典]
- China Deprives Japan of Rare-Earths Supply, Escalating Dispute(WSJ)
- 日盼交涉「兩用物項」出口管制 陸大使駁回(聯合報)
- 華爾街日報:中國停止輸日稀土許可審查(中央社)
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