
高市早苗首相の「台湾有事」発言をきっかけに、中日関係の緊張が急速に高まっている。その影響が最も強く現れているのが、中国国内での日本旅行キャンセルの急増である。香港・欧米メディアの報道を総合すると、中国政府は「安全上の懸念」を理由として日本渡航を控えるよう国民に警告し、国有企業(国企)や公的機関では、職員に日本旅行の中止を求めるケースが相次いでいる。
湖北省武漢市の国企に勤務する技術者は、10月に承認された年末の大阪旅行を「直前で取りやめるよう」総務部から指示を受けた。航空券と宿泊費の一部は返金されたが、ビザ費用は戻らず、損失を抱えることになった。北京の公立病院の男性看護師は、人民元6000元近くを支払った日本旅行がほぼ全額返金不可となり、「生活に直結する大きな痛手だ」と語った。
こうしたケースはSNS「小紅書」でも多く共有されており、党・政府機関の職員が一斉に旅行を取り消す動きが広がっている。
日本政府はすでに在中国邦人への安全対策強化を呼びかけている(→関連記事: 在中邦人への安全対策強化)。
航空券は50万件規模でキャンセル 航空・旅行・文化交流に広範な影響
航空分野でも混乱が加速している。ガーディアンによれば、中国の航空会社7社以上が無料キャンセルに応じ、11月15〜17日の3日間で日本行き航空券は約50万件が取り消されたとされる。
四川航空は成都―札幌線を翌年1〜3月末まで全便取り消し、春秋航空も複数の日本線をキャンセルした。影響を受け日本市場では小売・旅行関連株が下落し、日本観光業界でも警戒感が強まっている。
同時に、日本向け個人ビザの手続き停止が旅行代理店の間で広がっており、地方レベルでは日中交流イベントや学術交流が中止された。さらに、日中共同世論調査の発表は北京側の要請で中断され、文化分野では、日本映画の上映延期やアニメ作品の興行収入急落など、影響が多方面に拡大している。
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国営メディアは高市首相発言を一斉に批判し、人民日報は「軍国主義の再来」を警告した(→人民日報、高市首相発言を全面批判)。ネット上でもナショナリズムが高まり、反日感情が急速に広がっている。
日本政府は在中国大使館を通じ、混雑地帯の回避や単独行動を避けるよう邦人に警告を出した。家族連れに対しては、周囲の状況把握を徹底するよう求めている。
緊張緩和の見通し立たず 外交ルートでの調整続くも構造的対立は残る
日本政府は外務省の金井正明審議官を北京へ派遣し、劉晋松次官補との協議を進めている。経済界からは早期の緊張緩和を求める声が強く、日本経団連の十倉雅和会長は「政治の安定は経済交流の前提だ」と指摘した。
一方で、高市首相は発言撤回を拒否しており、日本政府は「台湾政策に変更はない」との立場を強調している。しかし中国側は台湾を「核心的利益」と位置付けており、今回の対立は構造的な衝突を内包している。
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短期的な旅行キャンセルにとどまらず、中長期的に人の往来・文化交流・観光産業に影響が残る可能性が高い。中日関係の不安定化が続く中、今後も企業活動や市民レベルの交流への影響が広がる懸念がある。
[出典]
- (台湾・中央社)https://www.cna.com.tw/news/acn/202511190371.aspx
- (英ガーディアン)https://www.theguardian.com/world/2025/nov/18/chinese-travellers-estimated-to-have-cancelled-500000-flights-to-japan-amid-rising-tensions?utm_source=chatgpt.com

