
中国海南省瓊中県で10月31日、海南天然橡膠産業集団(海膠集団)の加釵支社が地元農民の耕作地にあるビンロウ樹を一方的に伐採したことをきっかけに、大規模な抗議活動が発生した。農民らは伐採された木を会社前に積み上げ、説明を求めたが、群衆は次第に過熱し、車両を転覆させ、看板を引き剝がす事態に発展した。
警察は多数の特警(機動隊)を派遣し、盾や傘を使って投石を防御した。夜には銃声が響き、威嚇発砲があったとの情報も流れた。騒動は翌11月1日午前1時ごろに沈静化し、死傷者は確認されていない。事件後、中国のネット当局は関連動画を削除し、国内メディアの報道は制限された。
地元当局が「土地権益の争い」と説明 調査班を設置
瓊中県公安局は同日午後、「土地所有権をめぐる紛争が原因」とする通報を発表。海南橡膠の加釵支社と営根鎮那柏村委会の下にある猿胎返村の村民との間で長年の土地権益問題があり、企業が農民の同意を得ずに作物を撤去したことが衝突につながったと説明した。
県政府は直ちに調査班を設置し、関係者の権益を法に基づき保護し、結果を社会に公表すると表明した。現場は一時封鎖され、警察が夜通し秩序回復に当たった。
教育開発事業との関連 土地整理をめぐる摩擦
香港メディアによると、問題の土地は県内の教育施設整備計画の一部で、今年2月には「瓊中第二高級中学」建設用地として整地が進められていた。所有権は海南紅島牧場有限公司に属するが、農民が長年耕作を続けており、補償金の支払いや代替地の扱いをめぐって摩擦が生じていた。海南橡膠は同牧場の土地管理業務にも関与しており、今回の伐採は行政と企業の線引きが曖昧なまま進められた可能性がある。
海南橡膠の企業背景 国有大手で天然ゴムの主力
海南橡膠は2005年に設立され、2011年に上海証券取引所へ上場(証券コード601118)した国有企業である。中国資本市場で唯一、天然ゴムの「研究・栽培・加工・貿易」を一体化した上場企業であり、世界最大の天然ゴム生産グループとされる。
同社は海南省全域にゴム園を保有し、タイヤ原料、医療用ゴム、建設資材などを国内外に供給。海南省の「農墾改革」政策を支える中核企業として、土地再開発や教育・工業用地転用にも関与してきた。しかし、その過程で地元農民の権益との摩擦が繰り返されている。
開発の影で深まる地域格差 SNSで広がる反発
今回の抗議は、中国の地方開発が抱える構造的課題を映し出すものだ。国有企業の主導で進む土地転用に対し、補償や説明が不十分なまま事業が推進される例が相次ぐ。海南省は「自由貿易港」構想のもとで教育・観光・農業の再開発を進めているが、住民側の理解と合意形成が課題となっている。
中国本土では、大規模な抗議や衝突が報じられることはまれであり、今回の事件は香港・台湾メディア(中央社、香港01、星島頭條)が詳細を伝える形となった。ネット上では、土地政策や地方行政への不信感を示す投稿が広がり、政府と住民の関係を見直すべきだとの意見も多い。
分析:国有企業と地域社会の対立が浮上
海南橡膠は、国の「南方ゴム戦略」の要となる企業であり、中央の農業・資源政策の一翼を担っている。しかし、国有企業の効率優先の開発が地方社会との軋轢を生み、今回の事件はその象徴といえる。土地補償の透明化や住民対話の制度整備が求められている。
海南省政府は今後、自由貿易港政策と地域共生の両立を迫られる。今回の衝突は、地方経済の急成長の裏で社会的バランスをいかに維持するかという課題を突きつけた。
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