習・トランプ会談、米中対立の「一時停止」 関税・レアアース・AI覇権を巡る駆け引き

■ 関税引き下げで「休戦」 トランプ氏はフェンタニル対策を条件に譲歩

 10月30日、韓国・釜山で行われた米国のトランプ大統領と中国の習近平国家主席の首脳会談は、2019年以来6年ぶりの直接対話となった。約2時間に及ぶ協議では、関税、レアアース、大豆、フェンタニルなどの分野で一定の合意に達した。

 トランプ氏は、中国が合成麻薬フェンタニルの取り締まりを強化することを条件に、中国製品への関税を10%引き下げると表明。最低関税率は20%、平均関税率は47%に低下し、米消費者負担の軽減と中国製品の競争力回復を狙う。CNNは「米中貿易関係の“リセット”ではなく、一時停止を意味する小休止だ」と分析している。

 習主席は「経済・貿易は中米関係の安定錘であり推進力である」と強調し、「報復の悪循環ではなく、協力の拡大を図るべきだ」と発言した。

 👉 関連記事:米中首脳会談、釜山で開催 関税・レアアース・AI覇権を巡る駆け引き フェンタニル問題も


■ レアアースと大豆で歩み寄り 短期的な妥協の裏にある思惑

 会談では、中国が発表していた「レアアース域外管理」政策が焦点となった。この措置は、中国産レアアースを含む製品を世界的に規制対象とするもので、米企業に強い懸念を与えていた。トランプ氏は「レアアース問題は解決した」と述べ、今後1年間は輸出制限を停止することで合意。米国は9月に発表した対中制裁の一部を撤回した。

 一方、中国国有の中糧集団は米国産大豆を3船分発注し、貿易緊張の緩和を象徴した。こうした短期的妥協は、両国の経済摩擦の沈静化を狙う政治的メッセージでもある。
 👉 関連分析:中国、レアアース輸出規制で世界供給網に衝撃
 👉 補足情報:中国、レアアース輸出管理を全面強化


■ 半導体とAI覇権 譲歩の範囲は依然不透明

 ル・モンド紙によると、中国にとって最大の懸案は米国製マイクロプロセッサの供給確保である。AI分野で激しい開発競争が続く中、エヌビディア製の最新チップ「ブラックウェル」は依然として中国勢が追いつけない壁となっている。

 トランプ氏は会談前に「ブラックウェルチップについて議論する」と述べたが、帰途の機内で「最新モデルではない」と釈明。米国の譲歩範囲は不透明なままだ。これは、AI技術が今後の経済主導権を左右する象徴的な問題とされる。
 👉 関連報道:RFI「習特会」分析記事(フランス世界報)


■ 台湾・ウクライナ問題は議題外 「冷たい休戦」にとどまる

 今回の会談では、台湾やウクライナをめぐる安全保障問題には触れなかった。トランプ氏は「台湾について話す予定はない」と明言し、帰国後も「議題にならなかった」と述べた。台湾側が懸念していた米国の政策転換は回避された形だ。

 ル・モンドは「中米間の根本的な矛盾は解消されず、戦略的対立は続く」と報じた。両国が歩み寄りを見せたのは、あくまで経済的損失を最小限に抑えるための一時的な休戦に過ぎない。

 👉 関連報道:中央通信社(CNA)「習近平:中美は協力リストを拡大すべき」
 👉 関連動向:中国がフェンタニル原料の規制強化に同意


■ 分析:経済協調の裏で続く地政学的緊張

 習主席は「対話は対立より良い」と語り、今後もあらゆるレベルでの意思疎通を維持する方針を示した。しかし、AIや半導体覇権を巡る競争は構造的な衝突であり、今回の会談は「冷たい休戦」にとどまった。

 米国が国内経済を優先する重商主義路線を維持する一方、中国はAPEC議長国として国際経済秩序の主導権を狙う。釜山での首脳会談は、協調と競争の狭間で揺れる中米関係の現実を映し出した。


[出典]
中時新聞網on.ccRFIフランス世界報中央通信社(CNA)

[関連情報]
AlertChina:米中首脳会談、釜山で開催
AlertChina:中国、レアアース輸出規制で世界供給網に衝撃
AlertChina:中国、レアアース輸出管理を全面強化
AlertChina:トランプ氏と習近平氏19日電話会談へ
AlertChina:中国がフェンタニル原料の規制強化に同意

タイトルとURLをコピーしました