
習近平体制下、解放軍に史上最大の反腐敗粛清
中国共産党第20回党大会以降、人民解放軍で前例のない大規模な反腐敗運動が展開されている。
「刮骨療毒(骨を削って毒を治す)」と呼ばれる徹底的な粛清のもと、わずか3年足らずで上将28人が失脚または消息不明。中将・少将級では100人を超えるとされる。
第20期第4回中央委員会総会(四中全会)では、軍関係の中央委員42人のうち27人が欠席し、欠席率は63%に達した。
中央軍事委員会主席の習近平は「腐敗を鉄腕で断たねば後患無限」と警告し、人民解放軍報は「腐敗分子を徹底排除し軍を再構築する」と論じた。
この一連の動きは、汚職摘発の域を超え、軍の統制と忠誠再編を狙う政治的粛清として進行している。
九名の上将を同時処分、四中全会で軍中枢に空席拡大
四中全会直前、中国国防部は9人の上将を党籍・軍籍から除名した。
対象は、副主席の何衛東、政治工作部主任の苗華、副主任の何宏軍、聯合作戦指揮センター副主任の王秀斌、東部戦区司令員林向陽、陸軍政治委員秦樹桐、海軍政治委員袁華智、ロケット軍司令員王厚斌、武警部隊司令員王春寧である。
このうち8人は中央委員を兼ねており、軍の中枢ポストは軒並み欠員となった。
また王仁華(中央軍委政法委書記)を含む14人の上将が消息不明とされ、政法系人事にも波及している。
(関連記事:中国軍、反腐敗で歴史的粛清 何衛東・苗華ら上将9人を同時処分)
火箭軍4代司令が全員失脚、装備発展部も震源地に
反腐敗の中心は、ロケット軍(火箭軍)と軍委装備発展部である。
歴代4代のロケット軍司令員――魏鳳和、周亜寧、李玉超、王厚斌――がすべて失脚した。
また国務委員兼国防部長を務めた李尚福と魏鳳和も摘発され、装備調達や工事契約を巡る巨額汚職が焦点とされている。
多くの軍需企業も関与したとみられ、軍の近代化を掲げる習政権にとって深刻な打撃となった。
政工系・東南系の粛清と人事凍結
粛清は旧南京軍区系(東南系)と政治工作系にも及ぶ。
何衛東・苗華はいずれも第31集団軍出身で、林向陽・王秀斌・秦樹桐らも同系統に属する。
苗華は8年間にわたり政治工作部主任を務め、将官の昇進を握っていた。
当局は「特に巨額の職務犯罪」として調査を進めているが、背景には派閥構造の解体もあるとされる。
四中全会では火箭軍副司令の王立岩、聯勤保障部隊司令の王抗平、軍委弁公庁主任の方永祥ら4人の昇格が見送られ、中央軍委の人事も停滞。軍内の空席は増加している。
(内部リンク:特集:四中全会と中国経済—減速下の政策調整と第15次五カ年計画)
習近平の「反腐敗」—忠誠統制と権力集中の両面性
習近平主席は「鉄腕で腐敗を断たねば後患無限」と警告し、人民解放軍報は「腐敗分子を徹底排除し人民軍を再構築する」と論じた。
こうした強硬姿勢は、汚職摘発にとどまらず、軍内部の統制と忠誠を再確認させる政治的意味を帯びている。
反腐敗の名のもとに進む人事刷新は、派閥の解体と権力集中を伴い、軍の透明性よりも政治的安定を優先する側面が強い。
観測筋は「今回の粛清は軍紀粛正であると同時に、体制リスクを管理する政治的操作でもある」と分析する。
背景:人民解放軍粛清の政治的構図
第20回党大会以降、中国人民解放軍(PLA)は習近平による反腐敗キャンペーンの下で、かつてない規模の粛清に直面している。
習氏が掲げる「刮骨療毒(骨を削って毒を治す)」という表現は、単なる汚職追及ではなく、政治的忠誠の再構築を伴う強権的な統制強化を象徴している。
専門家によれば、将官28人と百人を超える高級幹部の更迭は、長年続いた人脈ネットワークの解体と、最高指導者への直接的な服従を確保するという二つの目的を併せ持つ。
国家メディアはこの粛清を「道徳的浄化」として位置づける一方、国外の観測筋はこれを権力集中と中央集権的統制の再強化を狙った政治戦略の一環とみている。
こうした大規模な粛清は、制度的な腐敗の深さと同時に、指導部が軍内部の分裂や自律的行動を強く警戒していることを示している。
人民解放軍という国家権力の中枢を対象に、忠誠と秩序を再構築する「政治的外科手術」が進められている。

