
習近平政権、軍の「頂点」に切り込む反腐敗措置
中国国防省は10月17日、中央政治局委員で中央軍事委員会副主席の何衛東(上将)と、同委員で政治工作部元主任の苗華(上将)ら9人を党籍・軍籍から除名し、軍事検察に送致したと発表した。処分理由は「重大な規律違反および巨額汚職」。張暁剛報道官は「党中央と中央軍事委員会は、軍の腐敗を根絶する断固たる決意を示した」と強調した。
対象となったのは、何衛東、苗華、何宏軍、王秀斌、林向陽、秦樹桐、袁華智、王厚斌、王春寧の9人。いずれも上将クラスで、軍各部門の要職にあった人物だ。党内規律違反だけでなく、巨額の職務犯罪が指摘され、「影響は極めて深刻」とされる。
背景に「四中全会」直前の権力再編
今回の発表は、中国共産党第20期中央委員会第4回総会(四中全会)が北京で開かれる数日前に行われた。党大会を前に軍の人事刷新を進めることで、習近平指導部が統制を強化し、政権基盤を再確認する狙いがあるとみられる。
6月には全国人民代表大会常務委員会が苗華を中央軍事委員会委員職から正式に解任していた。苗華は福建省で政治工作幹部を務め、習近平国家主席と福建勤務時代に関係を築いたとされる。2024年11月には「重大な規律違反」で停職処分を受け、以後公の場に姿を見せていなかった。
台湾情報機関「現役上将の半数が消息不明」
台湾国家安全局の蔡明彥局長は15日、立法院外交・国防委員会で「中共の現役上将32人のうち16人が昨年12月以降、公の場に現れていない」と報告した。これは「軍内部で大規模な調査と粛清が進んでいる兆候」と分析した。
蔡氏は「中共には35人の上将がいるが、32人が現役であり、その半数が半年以上姿を見せないのは異常だ」と述べ、今回の処分が広範な調査の一環であると指摘した。台湾側では、この一連の動きを「1976年以来最大の軍高層粛清」とみている。
何衛東の失脚、軍中「福建派」の崩壊を象徴
何衛東は1957年生まれ、江蘇省出身。南京軍区第31集団軍で長く勤務し、福建を含む沿海防衛を担当した。2017年以降、中央軍事委員会副主席として陸海空三軍を統括し、「人民解放軍のナンバー2」と呼ばれてきた。
しかし、今年3月の全人代閉幕以降、公の場に姿を見せず、英『フィナンシャル・タイムズ』などは4月時点で「失脚した」と報じていた。軍内では習近平に近い「福建派」幹部が多数を占めてきたが、今回の粛清でその勢力も急速に縮小する見通しだ。
軍の統制と政治的影響
中国政府は2012年以降、軍需・装備部門の腐敗摘発を重点化し、軍事支出の透明化と党の直接統制を進めている。近年はロケット軍や武装警察部隊での汚職事件が相次ぎ、装備契約や人事昇進を巡る「裏金構造」が問題化していた。
今回の9人同時処分は、軍の上層部に対する強い警告であると同時に、四中全会を前にした政治的安定の演出とも受け止められる。軍内の忠誠度を再点検し、指導部への服従を徹底させる狙いが透ける。
中国の軍事アナリストは「反腐敗という名目の下で、習近平主席が軍の人事を再編成し、権力集中をさらに強化している」と指摘する。
今後の焦点:軍再建と国際的影響
人民解放軍の信頼性は、内部統制の脆弱さと汚職体質により揺らいでいる。軍改革を標榜する習近平政権にとって、今回の処分は「政治的浄化」と同時に、軍の再建に向けた節目となる。
一方で、軍高層の連続失脚は、台湾海峡や南シナ海をめぐる作戦能力や指揮系統の安定性にも影響を与える可能性がある。国際社会は、今回の粛清が中国軍の実戦力や意思決定の集中化にどう影響するかを注視している。
[出典]
・https://www.dw.com/zh/中国军中反腐大动作何卫东苗华等9人被开除军籍党籍/a-74401427
・https://www.rfi.fr/tw/中國/20251017-何衛東-苗華等9人嚴重違紀違法被開除黨籍軍籍
・https://def.ltn.com.tw/article/breakingnews/5214837
[関連情報]
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