
米中関係の緊張が続くなか、米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は、長年にわたり中国との関与を推進してきた米経済界がこのほど、トランプ政権の交渉チームに「中国に対して冷静で、かつ強硬な姿勢を取るべきだ」と助言したと報じた。経済界の立場転換は、中国政府が過去20年にわたり国際的な約束を反故にしてきたことへの「判決」だと指摘している。
WSJの報道(別再軽信──美國商界提出對華新策略)によると、米国商工会議所は9月の報告書で、中国が世界貿易機関(WTO)加盟時に掲げた市場改革や国家干渉の縮小という誓約を裏切り、「激進的な産業政策」「強制的技術移転」「不透明な国家安全法」によって米中関係の均衡を崩す経済構造を築いたと批判した。
また中国は、政府調達制度を利用して外国企業を排除している。内部文書「79号文書」や「551号通知」では「消A(Delete America)」という業界用語まで使われ、政府入札では国産品に自動的に20%の価格優遇を与える仕組みがある。医療技術などの分野で米企業が大きな損害を受けているという。
商工会議所は米政府に対し、まず中国に米国産大豆・トウモロコシへの報復関税撤廃を迫るよう提案。これにより米農家を支援しつつ、中国の食料安全保障にも寄与し、北京政府が本気で合意を望むかを見極められるとした。また、レアアース(希土類)輸出については長期かつ予測可能な協定を結ぶよう求めた。短期協定では中国の判断に米産業が左右され、サプライチェーンの安定性が損なわれると警鐘を鳴らした。
さらに商工会議所は、知的財産権の保護強化も不可欠だと主張。新薬の研究データなど企業の専有情報を守る仕組みを整え、中国特許制度の透明化を求めた。報告書は「中国は多国間主義を掲げながら、実際には経済消耗戦を仕掛けている」と警告している。
一方、ブルームバーグは、ホワイトハウス内で親商派が台頭し、対中タカ派が後退していると報じた。トランプ大統領は近く習近平国家主席と会談する見通しで、投資規制緩和や台湾支援縮小を求める中国側に歩み寄る可能性がある。
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テクノロジー業界の影響力拡大も背景にあり、トランプが動画アプリ「TikTok(ティックトック)」の米国内存続を容認し、**エヌビディア(NVIDIA)**製AIチップの一部を中国販売に解禁する計画を進めるなど、米中関係の軟化を印象づける動きが相次ぐ。
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前政権で国家安全保障会議(NSC)副補佐官を務めたマット・ポッティンジャー氏は「ホワイトハウスはTikTok政策やチップ輸出規制の緩和が中国への一方的譲歩であることを理解していない」と警鐘を鳴らした。
エヌビディアのジェンスン・ファン(黄仁勳)CEOはポッドキャスト番組で「タカ派は愛国者ではない」と発言し物議を醸した。ファン氏や投資家デービッド・サックス氏は「中国を米国技術に依存させることが米国の利益になる」と主張した。
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ホワイトハウスのアンナ・ケリー報道官は「大統領は習主席と良好な関係を保ち、国益を守っている」と強調。「TikTok存続を可能にした合意はその成果の一つ」と述べた。ただし、輸出管理を統括する商務省高官ランドン・ハイド氏の人事撤回など、政権と議会の間で対中政策をめぐる亀裂が生じている。
米国企業研究所(AEI)のデレク・シザーズ氏は「親商派はトランプが対中政策を転換する以前にワシントンを主導していた勢力だ」と述べ、「トランプが変えた論調が、彼の政権下で再び元に戻ろうとしている」と語った。
ハドソン研究所のマイケル・ソボリック氏も「利益最大化と安全保障の両立という幻想は、中国共産党によって繰り返し打ち砕かれてきた」と指摘。
米中関係、再び転換点に
経済界が「強硬」を求め、ホワイトハウスが「取引」を探る構図のなか、米中関係は再び再構築期を迎えている。
出典:
- 中央通訊社(CNA)《華爾街日報:美國商界忠告華府 對中國要清醒要強硬》(2025年10月8日)
- Bloomberg/Yahoo財經香港《親商陣營得勢 強硬派別式微 華府鷹派憂心特朗普對華方針開倒車》(2025年10月7日)