
「鍾才文」名義で7日連続発表
中国共産党の機関紙『人民日報』は9月30日から7日連続で、中国経済を擁護する論評を掲載した。いずれも「習近平経済思想の指導の下にある中国経済特別論文」欄で発表され、筆名は「鍾才文(中央財経委員会文章の諧音)」とされる。中には一面トップに掲載されたものもあり、その政治的重みは明らかだ。
この連続論評は、経済の減速と国民の不安を背景に発表された。実際、中国国内では企業の業績悪化や雇用不安が続き、【👉 中国で労使紛争急増 背景に経済成長鈍化】が伝えるように、労働現場では紛争が急増している。こうした社会的圧力の高まりに対し、党機関紙が「経済への信心」を再強調する形となった。
各論評の内容と強調点
初回論評では「中国経済は依然として強い回復力と活力を保っており、2025年のGDPは140兆元(約2800兆円)に達する見通し」と主張。
2日目は「党の指導の堅持」「理論体系の発展」など、安定成長を支える6項目の要素を提示した。
しかし、3日目の論評ではやや防御的なトーンが目立ち、「経営主体の感覚が悪いからといって経済全体を否定してはならない」「木を見て森を見ずではいけない」と強調した。
続く4日目は「中国の投資と発展はすでに黄金期を過ぎた」との見方を退け、科学技術や消費分野に依然として大きな成長機会があると反論。
さらに、5日目では「中国のマクロ政策は西側諸国に比べより確実で信頼できる」と主張し、政策の安定性を誇示した。6日目は地域間格差への取り組みを示した上で、最終日の7日目は国際経済をテーマに「中国は常に歴史の正しい側に立ち、多国間主義を実践し、世界に巨大な機会を提供している」と結論づけた。
四中全会と米中会談をにらんだ政治的演出
一方で、こうした論評は今月20日に開幕する第20期中央委員会第4回全体会議(四中全会)を意識した政治的演出との見方が強い。中央社によれば、会議では第15次五カ年計画(2026~2030年)の策定が議題に上る予定だ。
同時に、人民日報の連続発表は今月末の米中首脳会談も念頭に置き、内外に「経済的自信」を誇示する狙いがあるとされる。
もっとも、国内経済の実情は厳しい。製造業PMIは6カ月連続で50を下回り、失業率上昇が続く。こうした中で【👉 全人代と政協が閉幕 厳しい経済状況は継続】が報じるように、政府も成長目標の維持に苦心している。
経済悲観論を抑える政治キャンペーン
星島頭條は、「連続論評は四中全会を前に経済悲観論を抑え、党内外の思想を統一する政治キャンペーン」と分析。
さらに、【👉 習主席、経済成長率疑問視のエコノミストの処罰指示】に見られるように、政府は批判的な経済言論の抑制にも動いており、人民日報の論調はその一環ともいえる。
これに対し、学界では「中国経済に対する見解が割れる中で、こうした論評は『信心維持』の象徴」との声もある。最近では【👉 48歳の著名経済専門家が事故死 死因に憶測も】が報じられたように、体制批判に敏感な政治環境が続いており、人民日報の連続発表は安定を演出するための情報戦との見方も出ている。
出典
- RFI「北京消费断崖式下滑 人民日报喊话不要因感受不好就否定经济形势」(2025年10月6日)
- 星島頭條「人民日報連續7天發文撐經濟 學者:為四中全會統一思想」(2025年10月7日)
- 中央社「人民日報連日發文 分析指為中共四中全會統一思想」(2025年10月7日)