トランプ大統領が行政命令に署名
ドナルド・トランプ米大統領は9月25日、ホワイトハウスで行政命令に署名し、中国発の動画共有アプリ「TikTok」の米国事業売却合意を正式に承認した。
大統領は「この合意は米国の国家安全保障を守るものであり、中国側の同意も得られた」と強調。TikTokが完全に米国内で運営される体制を整えるとした。
新会社で米国事業を運営 オラクルが中核に
今回の合意では、TikTok米国事業を新設の合弁会社に移管する。米国投資家が約8割を保有し、親会社バイトダンス(字節跳動)の持ち株比率は2割未満に抑えられる。
米ソフト大手オラクルが「セキュリティ提供者」として参画し、米国ユーザーデータを米国内クラウド基盤に保存・監督するほか、アルゴリズムの複製と再訓練によって外部操作を防ぐ体制を構築する。さらに投資会社シルバーレイクや著名投資家が参画し、経営と資本面で米国主導の枠組みを明確にした。
分離期限を12月に延長
ロイター通信によると、トランプ大統領は母会社バイトダンスからの事業分離や新投資家の受け入れ、さらに中国政府の承認を得るため、法の履行期限を12月16日まで延長した。
副大統領バンス氏は「中国側に一定の抵抗はあるが、TikTokの継続運営と米国ユーザーのデータ保護を両立させることが最終目標だ」と強調している。
米国内運営を強調
トランプ氏は「TikTokは米国で1億7000万人の利用者を抱え、昨年の自らの再選にも貢献した」と述べ、自身のアカウントが1500万フォロワーに達したことも明かした。ホワイトハウスも先月、公式TikTokアカウントを開設している。
さらに取引にはデル・テクノロジーズ創業者マイケル・デル、メディア王ルパート・マードック、そして「世界的な投資家4〜5人」が関与するとも説明した。
中小企業は安堵
テキサス州でマーケティング会社を営むジェン・リン氏は「胸をなで下ろした」と語る。
「顧客にとってTikTokは最良の集客プラットフォーム。もし禁止されていたら事業を続けられない人も多かった」と述べ、広告費が高騰する他の大手プラットフォームに比べ、TikTokは低コストで効果的に顧客を獲得できると評価した。
同氏が支援した地元カフェは、TikTokで動画を投稿しブロガーを招いた結果、ファンが増え行列ができるほどの人気店に成長したという。
政治色の薄いアルゴリズムを望む声
投資関連動画を投稿するグレッグ氏(フォロワー約1万人)は、政治色の濃い推薦表示に不満を抱いている。「フォックスニュースや極右的な動画を望んでいないのに何度も流れてくる」と語り、新体制では利用者の嗜好を優先する仕組みに改善されることを望んでいる。
米ピュー研究所の調査では、36%のTikTokユーザーが政治目的で利用すると回答しており、プラットフォームの影響力は政治にも及んでいる。
中国人留学生は検閲を懸念
テキサス州で博士課程に在籍する中国人留学生ビンセント・チョウ氏は、米国企業が管理しても検閲の懸念は残ると指摘。「米国では自由に意見を言える環境であってほしい」と述べ、TikTokが表現の自由を守る役割を果たすよう求めた。
同氏は「中国で発言が削除されることに息苦しさを覚え米国に来た。TikTokで一言発すればアカウント停止という事態は避けてほしい」と訴えた。
議会は警戒感を継続
一方、共和党議員の間では警戒感も根強い。下院議員のガスリー氏、ビリラキス氏、ハドソン氏は共同声明で「最終合意に至る前に、中国共産党とつながる組織の影響や監視から米国ユーザーを守れることを確実にしなければならない」と強調した。
過去には下院外交委員会がTikTok禁止法案を可決した経緯があり、今回の合意に対しても議会は詳細開示を求め続けている。
米中首脳の対話で合意に前進
正式承認に先立ち、トランプ大統領と習近平国家主席は電話会談を行い、TikTokをめぐる妥協点を模索していた。トランプ氏は「習主席との会話は良好で、合意を進めることに同意を得た」と明かし、両国は近く対面会談を予定している。ここではTikTokに加え、関税や台湾問題など幅広い議題が議論される見込みだ。