米軍「タイフォン」ミサイル、日本で初公開 中国は撤去要求、東アジアの安全保障に波紋

岩国で初披露された「タイフォン」システム

米軍は9月15日、山口県岩国市の岩国基地で「タイフォン(Typhon)」中距離ミサイルシステムを初めて公開した。移動式発射台を備えるこのシステムは、艦艇用の垂直発射装置を改修したもので、巡航ミサイル「トマホーク」や迎撃用のSM-6を搭載可能だ。射程は480〜1600キロメートルに及び、日本から発射すれば中国の沿海部やロシア極東の一部を射程に収める。公開は日米共同演習「堅毅の竜(Resolute Dragon)」の一環で、約1万9000人が参加する。

中国の強烈な反発

この公開に対し、中国外交部の林剣報道官は「日米は中方の厳正な懸念を無視して配備を強行した」と強調。「地域の軍拡競争を助長し、戦略的安定に重大な脅威を与える」と非難し、日米に「速やかに撤去するよう求める」とした。さらに日本には「侵略の歴史を深く反省すべきだ」と言及し、軍事行動の自制を促した。

米軍の狙いと抑止力の強調

米軍特遣部隊を率いるグーマン大佐は「タイフォンは陸海で運用でき、複数のミサイルを搭載可能だ。抑止力として機能し、対抗勢力の軽挙妄動を防ぐ」と説明。演習終了後には日本から撤収するとしたが、移転先や再配備については明言を避けた。

INF条約失効と米中のミサイル格差

タイフォンは冷戦末期の中距離核戦力(INF)全廃条約により、長らく米国が開発できなかった兵器である。中国は条約の非加盟国であったため、中距離ミサイルを自由に増強し、現在は1800基以上を保有する。2019年にINF条約が失効すると、米国は即座に開発を再開し、2024年にフィリピン、2025年に豪州での演習を経て、今回の日本公開に至った。

地域全体に広がる波紋

タイフォンの日本での展開は、中国だけでなくロシアも「不安定化を招く」と批判した。一方で日本政府は「日米同盟の抑止力強化」と評価し、自衛隊との共同訓練を推進している。米国がインド太平洋に中距離戦力を巡回配備する可能性は高まり、台湾海峡や南シナ海を含む地域の安全保障環境は一段と緊迫している。

過去の動き:台湾とフィリピン

なお、過去には台湾が米国から最大400発の地上発射型対艦ミサイルを購入する計画を進め、中国が強烈に反発した例もある(台湾が米対艦ミサイル400発購入か 中国強く反発)。また、フィリピンのマルコス大統領が中国に対して米中距離ミサイルの移設を提案したこともあった(比大統領、米中距離ミサイル移設を中国に提案)。これらはいずれも古い事例だが、東アジア各国がミサイル配備や移設をめぐり揺れ動いてきた歴史を物語っている。


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