福建艦が台湾海峡を通過 南シナ海で本格的な訓練任務に入る

2025年9月、中国人民解放軍海軍の3隻目となる航空母艦「福建」が台湾海峡を通過し、南シナ海にて科学研究と訓練を実施した。中国国防部と海軍報道官・冷国偉大佐は、「福建」の遠洋訓練は建造工程の一環であり、特定の軍事的対象を意図したものではないと強調した。
福建は、従来のスキージャンプ型空母とは異なり、平坦な全通式飛行甲板と**電磁カタパルト(EMALS:Electromagnetic Aircraft Launch System)**を採用した初の中国空母である。満載排水量は8万トン超で、2022年6月に進水、2024年5月に上海の江南造船所を出港して初の試験航海を実施している。
福建の南シナ海航行は、2019年に「山東」艦が台湾海峡を通過した後に正式就役した事例と重なり、今回の動きが最終段階である可能性を指摘する声が強まっている。
山東艦のパターンを踏襲か 福建の「第9回海試」に注目集まる
福建の訓練スケジュールは、先行する「山東」艦の就役パターンと酷似している。山東は2017年の進水後、計9回の海上試験を実施し、最後は広域訓練を経て三亜港で正式に就役していた。
今回、福建が南シナ海に入ったことが「第9回海試」であるならば、これは就役前の最終テストである可能性が高い。張軍社(中国軍事専門家)も、「福建は技術的成熟度や艦内協同力が高まり、就役が目前に迫っている」と述べている。
さらに、【関連記事:🔗中国海軍、南海で潜水艦訓練を強化(AlertChina)】など、中国海軍全体が南海への展開を強化していることとも連動する。
台湾・西太平洋に「質的変化」 3空母体制が意味する戦略圧力
福建の就役により、中国は「遼寧」「山東」と合わせて3空母体制に移行する。これにより、以下のような常態運用が可能となる:
- 1隻:整備中(ドック滞在)
- 1隻:南シナ海で訓練任務中
- 1隻:台湾東方~西太平洋を巡航中
台湾国防安全研究院の副研究員・揭仲氏は、この構成が「戦力の量的変化を質的変化に転化させる」と指摘する。実際に、台湾が想定する「戦力保存戦略(中央山脈東側への退避)」が、中国空母打撃群の長距離火力圏内に晒されるリスクが高まっている。
特に空軍の佳山基地や台東・石子山基地は、福建が搭載する空警-600(固定翼早期警戒機)の監視下に入る可能性があり、従来の「山の盾」が機能しなくなる懸念がある。
電磁カタパルト×空警-600=600キロ超の防空圏
福建の最大の技術的特徴は、電磁式カタパルトによる重航空機の発艦が可能になった点である。これにより、中国はついに米国同様の「固定翼早期警戒機」運用能力を獲得した。
具体的には、搭載される空警-600は大型レーダーを備え、探知範囲が従来の早期警戒ヘリ(直升機)より数倍広い。索敵範囲は600キロ超とされ、空母打撃群の外周防空圏が劇的に拡大する。
これに対し、台湾空軍の最大射程ミサイル「SLAM-ER(AGM-84K)」は270キロ程度にとどまる。つまり、福建を攻撃するには約350~400キロの進出が必要となり、攻撃機側が空警-600の探知範囲内で動かなければならない状況に追い込まれる。
福建艦の艦載機構成 即戦力としての準備も進む
2025年9月に行われた「抗日戦争勝利80周年・93軍事パレード」では、福建艦の航空団が初めて一般公開された。その内訳は以下の通り:
- 殲-35(ステルス艦載戦闘機)
- 殲-15T(重戦闘機/艦載型)
- 殲-15DT(電子戦機)
- 空警-600(艦載早期警戒機)
これにより、福建は就役後すぐに戦力化され、実戦配備が可能な空母打撃群として機能する見通しが強まっている。
今後の注目点とリスク評価
福建艦の正式就役によって、中国の空母戦力は量・質の両面で大きな転換点を迎える。今後注視すべき点は以下の通り:
- 正式な就役日と配備港の確定
- 台湾・バシー海峡周辺での訓練頻度
- 「遼寧」「山東」「福建」間の連携演習の実施の有無
- 台湾・日本・米国を含む連携国の対応シナリオ