反日映画の公開ラッシュと「南京照相館」の話題性
近年、中国社会では反日感情が高まり続けている。背景には、抗日戦争や旧日本軍の行為を題材とした映画や報道、記念行事の増加がある。2025年は中国にとって「抗日戦争勝利80周年」にあたり、この節目を契機として政府や映画界が愛国・反日色の強い作品を相次いで投入している。その代表例が、南京大虐殺を題材とした映画「南京照相館」と、旧日本軍731部隊を描いた映画「731」だ。

「南京照相館」は、日中戦争期に南京の写真館で働いていた見習いが大虐殺の写真を保存し、それを旧日本軍人の戦争犯罪立証に使ったという実話に基づく作品だ。上映後、中国のSNSには「日本人を皆殺しにしたい」といった過激な書き込みや、子どもが日本文化関連の所有物を破壊する様子を撮影した動画が拡散され、民族憎悪をあおる傾向が鮮明になった。SNSアカウント「李先生はあなたの先生ではない」は、こうした現象を「メディアが民族憎悪を利用してアクセス数を稼いでいる」と批判し、真の愛国とは理性を保ち、子どもの純真を政治宣伝の道具にしないことだと訴えた。
一方、「731」は旧日本軍の関東軍防疫給水部、いわゆる731部隊による人体実験などを描く作品だ。7月31日に公開予定だったが、実際には上映が始まらず、延期された可能性があると報じられている。
SNSでの批判と検閲、当局・メディアの反応
「南京照相館」は公開12日で興行収入17億元(約350億円)を突破する一方で、映画への批判はネット上で検閲対象となっている。「憎悪教育だ」「子どもの心に悪影響を与える」といった意見を投稿した複数のユーザーは、SNS運営側から発言禁止処分を受けた。
環球時報の元編集長・胡錫進氏は、一部批判を「明らかな漢奸(売国奴)的言論」と断じ、中国社会が日本への憎悪を煽っていると非難する発言や、日本右翼の南京大虐殺否定論を広めるような言説は取り締まるべきだと主張した。ただし胡氏は同時に、映画はあくまで芸術作品であり、健全な批評や市場的議論の余地は残すべきで、批判を過度に政治化してはならないと述べた。
北京市共産党委員会機関紙・北京日報も、「南京照相館」に対する批判の中にはファシズム批判を「反日」「憎悪助長」とゆがめたり、観客をからかうなどの悪意ある表現があり、国外ネット上に同様の投稿が存在することから「『内外結託の世論戦』の可能性がある」と警戒感を示した。環球時報も社説で、こうした批判を「歴史虚無主義の新種」と呼び、国外勢力による対中認知戦の関与を疑っている。
蘇州で相次ぐ日本人母子襲撃事件
こうした反日映画の公開が続く中、中国国内では日本人を標的とした事件も発生している。2024年6月には江蘇省蘇州市で日本人学校のスクールバスが襲撃され、中国人女性添乗員が死亡、日本人母子が負傷する事件があった。そして7月31日には、同じく蘇州で日本人母子が襲撃され、母親が負傷する事件が再び起きた。動機や犯人像は依然不明だが、中国国内の反日感情が事件の背景にあるのではないかとの懸念が広がっている。
東京での中国人襲撃事件と相互不信
同じ7月31日、日本の東京・神田では中国人男性2人が4人組に鉄パイプで襲撃され重傷を負う事件も発生した。中国政府は日本社会に深刻な「排外感情」が存在すると批判し、日本警察に迅速な捜査と在日中国人の安全確保を求めた。ただし、中国国内でも、この事件を排外感情と直結させるのは早計だとの声があり、犯人と被害者の間に何らかの関係があった可能性も指摘されている。
・蘇州でまた日本母子襲撃 母親が石で殴られけが
・蘇州母子襲撃事件の男の死刑執行 中国が日本に通知
・深セン男児刺殺事件で中国世論二極化 正当化の意見も
反日世尊形成で憎悪激化の恐れ
一連の動きは、中国政府が歴史認識やナショナリズムをめぐる情報空間を厳格に管理し、反日映画を世論形成の手段として活用していることを浮き彫りにしている。こうした宣伝は国内外の人々の感情対立を激化させる危険性をはらんでいる。
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